過半数の株を持っていない
少数の株主が、
会社の財政状況がどうなっているか、
調査する方法はないでしょうか?
一定の要件を満たした株主は、
会社の会計帳簿の閲覧・謄写請求権
という手段があります。
(出口がどこか「わからない」?)
<毎日更新715日目>
私、株主なのに、会社の財政状況とか、何も教えてもらえないんです。
株主の権利として、会社の会計帳簿などの閲覧などを請求する制度があります。
A子さん(仮名)は、
お父さんが資産家で、
ビルなど不動産をいくつか
もっていて、
お父さんは生前に、
その不動産を管理するための
株式会社を作りました。
その後、
お父さんが亡くなり、
会社の株は、A子さんが3分の1、
A子さんのお兄さんが3分の2
を相続しました。
A子さんは、
株主ではありましたが、
実際の会社の経営はお兄さんが
やっており、
A子さんはまったく経営には
タッチしませんでした。
ところが、最近、
A子さんのお兄さんの生活が
急に派手になり、
高級外車を乗り回したり、
自宅として都心のタワーマンションを
購入したりするようになりました。
噂によると、
会社所有の不動産をお兄さんが
売却したり、
抵当権をつけて借金を
しているようです。
そこで、
A子さんとしては、
お父さんがせっかく残してくれた
資産である会社の財産が
どうなっているのか、
心配になってきました。
しかし、
A子さんが、
お兄さんに、
会社の財政状況を尋ねても、
「お前には関係ない」と言って、
一切教えてくれません。
そんなとき、
株主であるA子さんは、
会社の財政状況などを調査する
ことはできないのでしょうか?
会社法では、
株主による会社の会計帳簿の
閲覧・謄写請求権という
制度を定めています。
すなわち、
一定の要件を満たした株主は、
会社に対し、
「会計帳簿又はこれに関する資料」
の閲覧及び謄写を請求することが
できるというものです。
ちなみに、
閲覧というのは、
実際に見て調べること、
謄写とは、写し(コピー)
をとることです。
ただ、
この制度は、
すべての株主に認められる
ものではなく、
株主の議決権の100分の3以上、
又は発行済み株式の100分の3以上
を有する株主に限られています。
上記のA子さんは、
3分の1の株式を持っていますので、
この要件は特に問題ありません。
次に、
閲覧や謄写を求めることができる
「会計帳簿又はこれに関する資料」とは、
具体的には次のような書類です。
さらに、
こうした会計帳簿の閲覧・謄写の
請求をするためには、
請求の理由というものを
明らかにする必要があります。
請求理由とは、
たとえば、
取締役の違法行為の差し止めや、
取締役に対する損害賠償請求といった
権利行使の検討のために行使する場合や、
取締役の独断専行を正すために、
取締役の解任の訴えを起こすための
資料収集などがあげられます。
上記のA子さんのケースも、
取締役であるお兄さんの経営責任を
追及するかどうかを検討するため、
ということであれば、
請求理由になるものと思われます。
なお、
この株主からの会計帳簿の
閲覧・謄写請求を受けた会社としては、
次のような場合には、
この請求を拒むことができる
とされています。
すなわち、
・株主が権利の確保又は調査目的以外で請求を行なっているとき
・会社の業務を妨げ、株主の共同の利益を害する目的があるとき
・会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
・知りえた事実を、利益を得て第三者に通報するために請求したとき
・過去2年以内において閲覧請求で知りえた事実を利益を得て第三者に通報したことがあるとき
したがって、
このようなケースに該当しない限り、
株主であるA子さんからの、
会計帳簿の閲覧・謄写の請求
があれば、
取締役であるお兄さんはこれを
拒むことができない、
ということになります。
また、
もし会計帳簿の閲覧・謄写請求を
不当に拒否された場合は、
仮処分や訴訟といった裁判手続きを
利用することも可能です。
これにより、
A子さんとしては、
お兄さんが経営している会社の
財政運営が適正になされて
いるかどうかを、
チェックすることができる
というわけです。
株主というのは、
いわば会社の所有者で、
取締役は株主から会社の経営を
任されている人、
というイメージです。
ですから、
いくら取締役が過半数以上を
持っている株主であるからといって、
少数の株主の利益を無視して、
会社を自分の好き勝手にして良い、
ということにはなりません。
会計帳簿の閲覧・謄写請求権
というのは、
A子さんのような過半数を
持っていない株主が、
会社の経営が適正になされているか
どうかをチェックする1つの制度
なのです。
というわけで、
今日のポイントは
ということです。
それにしても、
元はと言えばお父さんが
子どもたちのために残して
くれた会社であり、
財産なわけです。
3分の2の株式を取得した
お兄さんとしても、
会社を自分の好き勝手に
するのではなく、
やはり適正な経営をして
もらいたいものですね。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。