修理業者に車の修理を依頼し、
顧客は車を預けます。
修理業者は、
顧客に対して、
修理代金を支払うまでは
車は返しません、
と言う権利があります。
これを「留置権」(りゅうちけん)
と言います。
今回、
ビッグモーターがこの
留置権を悪用した事件を
取り上げてみます。
(今日の「棒人間」 悪徳業者がお金を請求??)
<毎日更新842日目>
またまたお騒がせの
ビッグモーターの話題。
この会社、
本当にアレコレいろいろと
出てきますね。
おかげで、
私のブログも書くネタに
こと欠きません。
車のエアコンが故障し、
ビッグモーターに修理を
依頼したAさん。
1週間ほどで仕上がると
聞いていたにもかかわらず、
10日経っても連絡がないので、
Aさんの方から連絡してみると、
という回答。
もうすでにこの時点で、
はぁ???
という感じですね。
Aさんも、
「いい加減な会社だな」と
思いながら車を取りに
行きました。
ビッグモーターから
提示された修理費用の
全額を支払い、
Aさんは車を引き取りました。
ところが、そ
の後、
ビッグモーターに修理を
依頼したはずの車のエアコンの
故障がぜんぜん直って
なかったということが
発覚します。
そこで、
Aさんは当然ビッグモーターに
文句を言いますが、
いろいろやり取りが
あった挙句、
Aさんは再度車を
ビッグモーターに預けます。
数日後、
ビッグモーターから
「修理完了の連絡」が
ありました。
ところが、
その時Aさんは
とんでもないことを
言われました。
え、
追加料金???
だって、
最初にエアコンの
修理を依頼して、
代金も払ったのに、
結局直ってなかった
わけですよね?
それで追加料金とは、
どういうこと?
しかも、
ビッグモーターは、
Aさんに対して
と言ってきたそうです。
ここで、
ちょっと整理して
みたいと思います。
修理業者に車の
修理を依頼して、
車を預けます。
その後、
修理が完了し、
修理業者は修理の代金を
顧客に請求します。
その際、
修理業者は、
修理代金を支払って
もらうまで、
預かった車を
返しません、
と言うことが
できるのでしょうか?
ちょっと専門的な
話になりますが、
修理業者は、
車の修理の契約(請負契約)
に基づき、
顧客に代金支払請求権
という債権を
持っています。
これに対し、
修理を依頼した
車の所有者は、
その車に対して所有権
という物権を
持っています。
だから、
所有者としては、
本来、
修理代金の支払いの
有無にかかわらず、
所有権に基づいて
車を返せ、
と言えなければ
ならないはずです。
なぜなら、
車を返した後も、
修理業者の修理代金
支払請求権自体は残っており、
その後も顧客に請求する
ことができるからです。
しかし、
常識的に考えて、
こんな結論は
おかしいですよね?
だって、
この顧客は、
もしかしたら、
車を返してもらって、
そのまま修理代金を
支払わずに逃げて
しまうかも知れません。
そのようなリスクを
修理業者に負わせる
ことは妥当ではない
でしょう。
そこで、
車を預かっている
修理業者には、
民法上の留置権(りゅうちけん)
という権利が発生します。
これはどういう
権利かというと、
要するに、
顧客が修理代金を
支払うまでは、
預かった車は
返さないと言える、
という権利です。
この留置権を定めた
民法295条1項では、
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。
と定められています。
少し難しい表現ですが、
「他人の物の占有者」
というのは、
今回の例では
修理業者を指します。
そして、
「その物に関して生じた債権」
とは、
まさに修理代金の
請求権のことです。
「その物を留置することができる」
というのは、
要するに、
代金を払ってもらうまで、
その車を返さないで
おくことができる、
ということです。
さてさて、
前置きが長くなりましたが、
それでは、
先ほどのビッグモーターの一件。
上記の例では、
ビッグモーターも、
とのたまっています。
一見すると、
ビッグモーターは、
この「留置権」という
正当な権利を主張
しているようにも
見えます。
しかしながら、
Aさんはもともと、
最初に車を引き上げる段階で、
ビッグモーターから
請求された修理代を
支払っています。
ところが、
ビッグモーターが
きちんと契約どおりに
車のエアコンの修理を
していなかった。
そこで、
Aさんが再度車を預けて、
修理を行わせたわけです。
ですから、
ビッグモーターは、
もはやその時点では修理代金の
全額を受領済みであり、
「その物に関して生じた債権」、
すなわちAさんに対する
修理代金の請求権は
消滅しています。
債権が消滅している以上、
上記の「留置権」は
発生しません。
ですから、
上記の例では、
ビッグモーターは、
Aさんの車を返さないなどと
主張することは、
許されないという
結論になります。
実際に、
Aさんは弁護士に相談し、
ビッグモーターに法的な手段を
とる旨を伝えたところ、
車は返却されたとのことです。
どこまでも
悪どい会社ですね。
しかし、
曲がりなりにもビッグモーター
のような全国的に
名の知れた会社が、
平気で法令を無視して
顧客を食い物にしよう
としているのは、
本当に驚きですね。
ちなみに、
ビッグモーターの
ホームページを見ると、
今でもこんな写真が
出てきます。
大丈夫なんですかね〜。
ちなみに、
同社のホームページの
プライバシーポリシーの
箇所には、
などと記載されています。
これほどまでに
コンプライアンス意識が
低い会社が、
よくまぁ、
と言った感じですね。
コンプライアンスというのは、
一般に「法令遵守」
(ほうれいじゅんしゅ)
のことだと
言われます。
ただ、
単に「法令を守れば良い」
というわけではなく、
法令だけではなくて、
倫理観や公序良俗など
社会的な規範に従い、
適正に業務を行う意味だと
されています。
要するに、
企業が法律を守るのは
当然ですが、
それだけではなく、
社会から求められる企業倫理や
社会規範に反する行為を
してはならないということです。
どうしてこのような
コンプライアンス無視の
経営が行われるのか?
こんなとき、
私が好きな、
二宮尊徳の
という言葉が
浮かびますね。
会社経営には、
やはりバランスが
必要です。
「道徳」の部分、
すなわち「理念」を忘れて、
利益の追求のみに走ると
どうなるか?
今回のビッグモーターのように、
顧客の利益を犠牲にし、
顧客を食い物にして利益を
上げようということに
なってきます。
もちろん、
企業ですから、
「利益」を上げることは
とても重要なことです。
しかし、
それはあくまで
「道徳」すなわち、
その会社の社会における使命や
「理念」といった「想い」の
部分に裏打ちされて
いなければなりません。
その会社の
社会的使命はなんなのか?
理念やビジョンは
どういったことなのか?
そこに立ち返って
もう一度考えてみる、
良い機会なのかも
知れませんね。
いろいろと
考えさせられる事件でした。
それでは、
また。
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今回は、相続土地の国庫帰属制度ということで、いらない土地を引き取ってもらう方法というテーマでお話しています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。