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渋谷の弁護士吉田悌一郎

【社員に対する損害賠償請求】その代わりに「減給処分」にすることはできるか?

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社員のミスで、

会社に損害が発生した場合でも、

全額を社員に弁償させることは

できません。

 

 

それでは、

弁償させる代わりに、

社員に懲戒処分としての

「減給処分」にしてしまう、

ということはできるのでしょうか?

 

 

 

 

(「減給」を定めて就業規則)

 

<毎日更新666日目>

社員に対する賠償請求は、制限される

社員を雇っている会社では、

社員のミスで、

会社が損害を受ける、

ということがあり得ます。

 

 

たとえば、

社員が仕事中に、

誤って会社の高価な備品や機材を

壊してしまったような場合。

 

 

私もときどき、

顧問先の社長さんから、

 社員の不注意によるものなので、ある程度は社員に弁償させたい

というご相談をいただきます。

 

 

この点、

法律上は、

社員にすべてを賠償させることは、

難しいとされています。

 

 

つまり、

上記の例で言えば、

壊れた機械の買い替え代金全額を、

社員に支払わせるようなことは、

できないということです。

 

 

なぜかと言うと、

会社というものは、

社員を雇うことによって、

自社の経済活動を広げ、

利益を得ているわけです。

 

 

そうなると、

仮に社員のミスで会社に損害が発生したとしても、

その損害のすべてを社員に負担させるのは

公平ではない、

という考え方があるのです。

 

 

この考え方のことを、専門的には

 報償責任(ほうしょうせきにん)の原理

などと言ったりします。

 

 

それでは、

全額の弁償はさせられない、としても、

会社はどの程度の範囲で社員に弁償させる、

つまり損害賠償請求をすることが

できるのでしょうか?

 

 

これについては、

最高裁判所が判断の基準を示しています。

 

 

具体的には、

使用者(会社)は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者(社員)の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の予防又はそ損失の分担についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見知から信義則上相当と認められる限度において,被用者(社員)に請求することができる

とされています。

 

 

数字的にどの程度か?というのは、

あくまでケースバイケースですが、

一般的には会社が受けた損害の

2割から3割程度と

されているようです。

 

 

 

 

 

 

代わりに、社員の給料の「減額処分」は可能か?

このように、

たとえ社員のミスで会社が損害を

受けたとしても、

会社は社員に、

その全額を賠償させることはできません。

 

 

そこで、

このような場合に、

この社員に対して、

「懲戒処分」としての「減給処分」

を行うことができないでしょうか?

 

 

つまり、

社員の給料を減給にすれば、

会社はそれだけ、

本来その社員に支払うべき給料額を

払わなくてよくなります。

 

 

そのようにして、

実質的に社員に損害賠償をさせる

ということが、できるかどうかです。

 

 

この点、まず、

減給処分だけではなく、

そもそも社員に懲戒処分を行うためには、

その根拠がきちんと「就業規則」に

定められている必要があります。

 

 

具体的には、

次のような定め方をすることが多いです。

 

第●条 社員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 過失により会社に損害を与えたとき。

② 以下略

 

うした就業規則に根拠規定があれば、

基本的に減給処分ができるわけです。

 

 

ただ、注意しなければならないのは、

「減給処分」には、法律上の限度

があるということです。

 

 

すなわち、

1回の減給の額が、平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払い期(通常1ヶ月)における賃金(月給)の10分の1を超えてはならない

とされているのです。

 

 

しかもこれは、

1回の懲戒の原因となる事案

(上記の例でいえば、ミスで機械を壊したこと)

に対して、

減給の総額が平均賃金の1日分の

半額以内でなければなりません。

 

 

つまり、

1回の事案について、

平均賃金の1日分の半額を何回(何日)

にもわたって減給してもよい、

ということにはなりません。

 

 

公務員の場合は、

減給何ヶ月、

というような懲戒処分がありますが、

民間の社員の場合は、

これはできない、

ということになります。

 

 

ですから、

金額にしてみれば、

1回の減給の金額はわずか、

ということになってしまいます。

 

 

したがって、

「減給処分」を課すことによって

実質的に会社の損害を賠償させる、

という方法は難しそうです。

 

 

 

 

 

 

 

どのような方法がベストか?

それでは、

こういったケースでは、

社員に確実に損害を賠償してもらうためには、

どうしたら良いのでしょうか?

 

 

 

総額を決めて、分割で払ってもらう

この場合、

まずは当の社員さんと話をして、

具体的にいくら賠償してもらうか

を決めることになります。

 

 

そして、

通常はなかなか一括で支払ってもらうことは

難しいでしょうから、毎月いくらずつ、

というように分割で払ってもらう

合意をすることです。

 

 

この場合、それなら、

毎月の分割払いの金額を、

社員に払う月々の給料から天引き

してはどうか、

という話が出てきます。

 

 

しかし、

労働基準法上、

会社が一方的に社員の給料から

賠償額を天引き

(これを法的には「相殺(そうさい)」と言います)

することは、

禁止されています。

 

 

ただ、

社員が給料からの天引きに同意

している場合はどうでしょうか?

 

 

その場合は、

その同意が、労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき

に限って、

例外的に天引きも許される

とされています。

 

 

そこで、

このような場合は、

社員との間できちんとした

「合意書」を作っておくべきです。

 

 

そして、この合意書には、

社員が賠償する金額の総額、

支払い方法(分割払いの金額や方法)

を定めるほか、

社員が給料からの天引きに同意

しているということも、

きちんと明記すべきです。

 

 

 

給料を減額する、という方法

次に、

懲戒処分としての「減給」ではなく、

その社員の給料額そのものを減額する、

という方法があります。

 

 

ただし、これは、

雇用契約で定められた労働条件を

変更することになります。

 

 

いわば、

契約で決まったことを変更するわけですから、

これは基本的には一方当事者である会社の意思

だけではできません。

 

 

ただ、この点は社員と話し合いを行い、

減額に同意をしてもらえば、

給料額を減額することが可能になります。

 

 

この方法を用いる場合も、

後になって

給料を勝手に下げられた!

などと言われないようにするために、

きちんと合意書を作っておくことが

必要です。

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

というわけで、

今日のポイントは

 

 社員のミスであっても、社員に賠償させるのはなかなか難しい!

ということです。

 

 

いずれにしても、

このようなケースでは、

会社が一方的に減額したり

天引きしたり、

ということはできません。

 

 

そこで、重要なことは、

会社と社員が、

お互いに感情的になることなく、

冷静かつ誠実に話し合い、

妥当な解決策を考える、

という姿勢だと思います。

 

 

具体的には,

会社が社員に

できる限り仕事をしやすい環境

(ミスが起こりにくい環境)

整える努力をしていたか?

 

 

社員のミスの程度がどのようなものか

(起こりうるミスか,通常あり得ないような

重大なミスか)?

 

 

などの具体的な事情を考慮しながら,

金額や支払い方法などについて

話し合いをしていくことに

なろうかと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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今回は、電子契約書に印紙を貼る必要があるのか、また、電子契約書をプリントアウトしたり、PDFで送信したようば場合はどうなのか、こんなテーマでお話しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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名前吉田 悌一郎
住まい東京都

Profile

中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。

中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。

【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。

中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。

私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。

また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。

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