「社長」になってほしいと頼まれて、
その会社の「社長」に就任したけど、
相変わらず会社の実権は
オーナーが握っている。
「社長」とは言っても、
実質的には経営にタッチできないし、
会社のお金の状況も把握していない。
こんな会社の「社長」で
あり続けることは、
大変に危険なことです。
(今日の「棒人間」 雇われ社長は辛い??)
<毎日更新807日目>
先日、Yahoo!知恵袋を
見ていると、
次のような質問がありました。
自分は会社の社長なのだけれど、
会社の実権は会社を離れた形に
なっているオーナーが握っていて、
自分は1株も会社の株を
持っていない。
それどころか、
そのオーナーが会社の財務や
経理全般を管理していて、
社長である自分はまったく
会社のお金の状況を把握
できていない。
さすがにこれはまずい、
と思って、
オーナーに会社の決算書や
財務諸表を確認させてほしい
と頼むと、
オーナーは激昂するそうです。
そこで、
このオーナーの目を盗んで、
こっそりと会社の財務資料を
見にしたところ、
ビックリ。
会社のお金のほとんどを
このオーナーが私的に
流用しており、
しかも、
会社は赤字決算を続けていて、
多額の負債も抱えている。
もうこんな会社の社長は辞めたい、
ということでオーナーに
かけあいますが、
株主であるオーナーが
社長を辞めさせてくれなくて、
困っているというものでした。
最近、
結構この手のご相談を受ける
ことが多くなっています。
私が持っている会社の社長にぜひ就任してほしい。
ゆくゆくは、この会社をすべてあなたに譲るから。
などと誘われます。
誘われた方も、
「社長」になれるなら、
しかも将来会社を譲って
もらえるなら、
と期待に胸を膨らませます。
しかし、
いざ「社長」になってみても、
仕事はそのオーナーの言いなりで、
「社長」としての会社経営の
裁量権はほとんどありません。
それどころか、
会社の財務や経理をオーナーが
握っていて、
「社長」であるはずの自分が、
会社のお金の状態を
ほとんど把握できない。
なんとかしたい、
と思っても、
自分は「社長」とはいえ、
会社の株を1株も
持っていませんので、
実質的にはオーナーの
言いなりになるほか
ありません。
こんな会社の社長をもう辞めたい、
と思っても、
オーナーは辞めさせてくれません。
そこで、
どうにもこうにも困って
しまっているというケースが
あります。
いくらオーナーに実権を
握られているといっても、
法律上は「社長」は会社の
代表取締役であり、
対外的にはその会社の
代表者です。
代表取締役、
というのは、
その会社の経営全般についての
責任を負う立場です。
オーナーに握られていて、
自分は会社の経営状態を把握
できなかったからといって、
この代表取締役の責任が
免除されるわけではありません。
特に、
対外的な第三者
との関係は深刻です。
典型的には、
その会社にお金を貸している
債権者との関係です。
会社にお金を貸している
債権者としては、
当然会社の代表者である
「社長」に対して返済を
請求します。
それに対して、
自分は会社の経理の状況が
よくわかりません、
といった言い訳は
一切通用しません。
それどころか、
代表取締役や取締役といった
会社役員の責任は、
たとえ会社が倒産した後でも
続きます。
すなわち、
会社法429条1項は、
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失
があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
と定めています。
仮に、
上記の例で、
実権をもったオーナーが
会社を私物化し、
会社を潰してしまった
としましょう。
この場合、
会社の経営に全責任を
持っている「社長」、
すなわち代表取締役には、
オーナーがやったことを
把握できなかったとしても、
があったものと
判断されてしまいます。
そうすると、
第三者に生じた損害
を賠償する責任が課されます。
具体的には、
その会社にお金を貸したけれども、
会社が倒産したことで
回収できなくなった
債権者の損害を、
社長が賠償しなければならない、
ということになってしまうのです。
しかも、
「社長」すなわち代表取締役の
氏名と住所は、
会社の商業登記事項として
公示されていますので、
誰でもその氏名・住所を
調べることができてしまいます。
このように、
実質的に自分が経営をコントロール
できない会社の「社長」に
就任するということは、
上記のリスクがあり、
大変に危険な行為です。
そこで、
それならばすぐにでも、
こんな会社の「社長」は
辞めたい、
と思うでしょう。
しかし、
こうしたケースでは、
これがまた簡単ではありません。
この点、
代表取締役などの取締役は、
理屈上はいつでも辞める、
すなわち辞任することが
できることになってはいます。
法律の根拠条文を見てみますと、
まず、
会社法330条では、
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
と規定されています。
そして、
委任契約を定めた
民法651条では、
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
と規定しています。
要するに、
取締役などの会社役員は、
理屈上は株式会社との間で
委任契約を結び、
会社の役員に就任
しているわけです。
その委任契約は、
各当事者がいつでも
解除できるので、
代表取締役や取締役は、
いつでも辞任することができる、
という理屈になります。
しかし、
ことはそう簡単ではありません。
会社法上は、
代表取締役の辞任が有効であるとしても、
その会社に他の代表取締役
となるべき人がいない場合は、
引き続き役員としての
権利義務を負い続ける、
ということになっています。
つまり、
辞めたは良いけど、
その後もその会社の役員としての
責任を負い続ける、
というわけです。
そこで、
オーナーに対して、
別の代表取締役を選任して
もらうように要求しても、
このオーナーは誰も選任してくれず、
結果的には自分が相変わらず
責任を負い続ける。
つまり、
実質的にはいつまでも「社長」を
辞めさせてもらえない、
ということが起こりうるのです。
また、
代表取締役は上記のとおり、
会社の登記事項になっています。
辞任した以上は、
役員辞任の登記をしないと、
やはり辞任後も対外的に
自分が社長としての責任を
負うことになる危険があります。
そこで、
オーナーに役員辞任の登記をして
もらうように頼みますが、
やはりオーナーに協力
してもらえず、
役員の登記はそのまま
ということが起こりえます。
このように、
安易に「雇われ社長」に就任
してしまったために、
ニッチもサッチも行かなくなる、
という恐ろしいケースがあるのです。
それでは、
こんな場合には、
どうしたら良いのでしょうか?
明日は、
このようなケースの対処法
についてお話ししたいと
思います。
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今回は、失ったお金、「裁判」で取り戻すよりも、本業をがんばって取り戻せ、というテーマでお話しています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。