税金や社会保険料以外に、
給料から社内積立や親睦会、
社員旅行の費用などが
天引きされることが
あります。
こうした給料からの
「天引き」は、
法的に認められる
のでしょうか?
(今日の「棒人間」 給料からの「天引き」は許されない??)
<毎日更新811日目>
先日、
とある会社の社長から
ご相談を受けました。
我が社では、何年かに1度、社内の結束をはかるために、社員旅行をやっているんです。
社員旅行ですか。
いいですねぇ〜。
旅行の費用は、大半は会社が出すのですが、一部は社員に負担してもらう形で、毎月の給料から社員旅行積立費を天引きして集めていたのです。
なるほど、給料から天引きですか・・・。
そうやって長年やってきて、特に社員から不満も出なかったのですが、最近若い社員がクレームを言い始めましてね。
どんなクレームでしょう?
いや、その社員は、社員旅行に参加を強制されるのはおかしい、しかも、旅行費用を給料から天引きされるなんて嫌です、と言うのです。
なるほど、まぁ今の時代、そういう社員さんがいてもおかしくないでしょうね。
社長の私としては、何とも寂しい気持ちになるものです。
それにしても、社員旅行の費用を給料から天引きするというのは、法律上何か問題があるのでしょうか?
労働基準法で、給料の直接全額払いの原則、というものがありまして、税金とか社会保険料以外に給料から天引きすることは、原則として禁止されているのです。
ハァ〜、そうだったんですか。
ただ、これには例外があります。
たとえば、社員旅行の費用の一部を給料から天引きすることについて、書面による「労使協定」があれば、例外的に給料からの天引きも許されることになります。
「労使協定」ですか〜、なんか仰々しいですね。
社員旅行も、社員の福利厚生を考えて、という側面もあるのですがね〜。
社長、それはわかります。
ただ、今は個人の自己決定権が尊重される時代です。
福利厚生であっても、社員旅行に参加するかどうか、ましてそれについて一部とはいえ費用を出すかどうかも、社員の自己決定に委ねられるべき問題でしょうね。
労働基準法24条1項では、
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
と定められています。
これが、
給料の直接全額払いの原則
と言われるものです。
ただし、
これには例外があり、
には、
給料から天引きすることができる、
とされています。
①の「法令に別段の定めがある場合」とは、
税金や社会保険料の控除が
これにあたります。
よく問題となるのは、
それ以外に、
社員旅行の積立とか、
社内積立などのための
お金を給料から
天引きする場合です。
この場合も、
社員の意思を無視して、
会社が勝手に天引きをする
ことができないことに
なります。
ただ、
例外的に、
これがいわゆる
「労使協定」と言われる
ものです。
この「労使協定」が
ある場合には、
こうした費用を天引き
することができることに
なります。
これは、
社員の福利厚生に
役立つならば、
ということで特別に
認められた例外です。
ですから、
逆に、
社員の福利厚生に役立たない
費用の天引きは、
たとえ「労使協定」が
あっても認められない
ことになります。
昔、
労働者派遣大手の
「グッドウィル」という会社で、
国の労働災害制度を脱法するために、
労働者から保険料を天引きして
民間保険に加入していた、
という事件がありました。
この事件で、
「グッドウィル」には天引き額の
全額返還を命じる
裁判所の判決が
出されています。
まぁ、
ここまで悪質なケースは
珍しいですが、
何でもかんでも給料から
天引きできるわけではない、
ということは注意が必要です。
今ではもう、
社員旅行なんかやっている
会社は珍しくなったかも
知れませんね。
私の事務所でも、
以前は「事務所旅行」
というのがあって、
弁護士と事務局スタッフ全員で
1泊ないし2泊の旅行に
行ったりしたものです。
しかし、
そのうち私も含めて
子どもが小さい人が多くなり、
またコロナなどもあり、
何となく「事務所旅行」は
ここ数年は実施されなく
なりました。
小規模な会社では、
社員全員で旅行に行く
「社員旅行」は、
たしかに社内の結束を強める
というような効果が
あったように思います。
しかし、
ここ20年くらいで、
人々の感覚もずいぶんと
変化してきました。
休みの日やプライベートな
時間を使って、
社員旅行に参加したくない、
と考える人も多くなって
きています。
組織の結束も大切ですが、
個人の自己決定権との
バランスも大切に
しなければなりません。
この辺は、
社内の「飲み会」などと
同じことが言えますね。
「社内旅行」を実施することは
悪いことではありませんが、
「強制」ではなく、
あくまで自由参加とするなど、
社員の自己決定権を尊重する
やり方が望ましいと考えます。
それでは、
また。
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今回は、ちょっと特別編ということで、なぜ私が、小規模企業の裁判予防という仕事をしているのか、そんなテーマでお話しています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
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私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
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