営業職やドライバーの業界で
一部採用されている、
社員の「出来高払い制賃金」。
しかし、
この制度にも法律上の
一定の要件があります。
社員との間で残業代をめぐって
「裁判沙汰」になることを
避けるためにも、
この「出来高払い制賃金」の
法律上の要件をきちんと
押さえておくことが必要です。
(今日の「棒人間」 出来高払い制は社員のモチベーションアップになるか?)
<毎日更新848日目>
うちの会社では、社員の給料は出来高払い制だから、成果を上げなきゃ給料はビタ一文払わんぞ!
昨日のブログでは、
引っ越し屋さんで有名な
「サカイ引越センター」に対して、
社員3名の未払い賃金等で
合計約1570万円の支払いを
命じる判決があった
という話を書きました。
この裁判で、
主に争点となったのは、
同社が採用していた
「出来高払い制賃金」
という社員の
給与システムです。
この会社では、
給与の大部分に
「出来高払い制」が
適用されていました。
それが、
法的な意味での
「出来高払い制」に該当
するのかどうか、
が裁判で争われました。
結果的に、
裁判所は、
同社が出来高払いとして
扱っていた部分のすべて
について、
「出来高払い制賃金」には
当たらないと判断しました。
ここで、
「出来高払い制」とは、
労働基準法施行規則
第19条1項6号の
「出来高払性その他請負性
によって定められた賃金」
のことです。
具体的には、
「出来高払い制賃金」とは、
労働者が販売した金額や製造した
物の量等の成果に応じて
賃金の額を決定する
制度を言います。
たとえば、
タクシーのドライバーとか、
生命保険の外交員、
トラックのドライバーなどの
仕事で採用されている
ケースが多く、
いわゆる「歩合給」と
呼ばれることもあります。
この「出来高払い制度」は、
経営者にとっては無駄がなく、
効率的な制度という
側面があります。
ただ、
社員にとっては、
成果によって賃金が大きく
変動するシステムです。
ですから、
社員にとっても、
がんばれば報われるという
モチベーションになる側面も
ありますが、
給料の額が不安定な制度
という面もあります。
そこで、
法律上この「出来高払い制賃金」が
認められるためには、
一定の要件があります。
この点、
法律上有効な
「出来高払い制賃金」と
認められるためには、
とされています。
要するに、
その「出来高払い」とされる賃金が、
その社員の仕事の成果に
応じた賃金となっている
必要があるわけです。
さらに、
この「出来高払い制賃金」は、
通常の月給制の場合と、
残業代の計算方法が
大きく異なっています。
一般的な月給制の場合、
割増賃金(残業代)の基礎は、
1時間あたりの賃金を
基準に算定されます。
そして、
この1時間あたりの賃金は、
簡単に言えば、
月給の額を所定労働時間で
割ることによって計算します。
たとえば、
ある社員の基本給(月給)
が25万5000円、
1ヶ月の所定労働時間が
170時間と仮定して、
この社員が1ヶ月に50時間
残業をしたとします。
その場合、
1時間あたりの賃金は、
となります。
すると、
50時間分の残業代は、
となります。
これに対し、
「出来高払い制賃金」の場合は、
1ヶ月の出来高の給料の総額を
総労働時間で割った額が、
割増賃金(残業代)の
基礎となります。
月給制のように
「所定労働時間」ではなく、
残業時間も含めた
「総労働時間」で割ります。
ですから、
「出来高払い制」の方が、
1時間あたりの賃金が
低くなります。
仮に、
ある社員の1ヶ月の出来高給が
25万5000円、
1ヶ月の所定労働時間が
170時間で、
残業時間が50時間とします。
そうすると、
1時間あたりの賃金は、
となります。
そして、
50時間分の残業代は、
となります。
この点、
割増賃金の割増率について、
一般の月給制の場合は、
上記のように1.25をかけますが、
「出来高払い制賃金」の場合は、
0.25となっています。
これは、
「出来高払い制」の場合は、
時間外労働に対する
時間当たりの賃金、
すなわち1.0に当たる部分は、
すでに基礎となった賃金総額の中に
含められていると
考えられるためです。
このように、
「出来高払い制」の方が
残業代が低くなり、
上記の具体例でも一般の月給制に比べて、
7万9261円も安くなっています。
このように、
「出来高払い制賃金」は、
経営者にとって無駄がなく、
効率的な側面のみならず、
支払うべき残業代も安くなる
という特徴があります。
ですので、
冒頭のような、
いわゆる「完全出来高払い制」
をとってしまえば、
理屈上は、
社員が成果を上げない限り、
まったく給料を支払わなくても
よくなりそうです。
しかし、
法律上、
このような「完全出来高払い制」は
認められていません。
この点、
労働基準法27条では、
出来高払い制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない
と定められています。
これは、
上記でも見たように、
「出来高払い制」は、
社員の収入の変動が大きくなり、
生活が不安定となる側面があります。
そのため、
一定額の「保障給」(最低保証のようなもの)
を支払わなければならないと
されているのです。
それでは、
この「保障給」というのは、
具体的にどのくらい払えば
良いのでしょうか?
この点、
上記の「労働時間に応じた一定額」
と言っても、
法律ではそれ以上具体的に
定められていません。
また、
通達でも「通常の労働者の実収賃金を
余り下回らない程度の収入が
保障されるべき」とされて
いるに過ぎません。
この点、
実務上は、
労働者の最低限の生活を保障
することを趣旨とする
「休業手当」の金額が
参考とされています。
すなわち、
労働基準法26条では、
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない
と定められています。
ここから、
「保障給」の目安としては、
平均賃金の60%以上
とされています。
ちなみに、
上記で見た残業代の計算ですが、
「保障給」の部分と、
出来高払いの部分はそれぞれ
別の計算方法で算出します。
すなわち、
上記と同じ例で、
1ヶ月の所定労働時間が
170時間、
残業時間が
50時間とします。
そして、
1ヶ月の保障給(基本給)
が15万3000円、
出来高払い部分が
10万2000円とします。
そうすると、
保障給(基本給)部分は、
となり、
出来高払い部分は、
となります。
そして、
この双方を足した1365円が
残業代の基礎となる
1時間当たりの賃金に
なりますので、
残業代の計算は、
となります。
このように、
「出来高払い制賃金」が
法律上有効となるためには、
一定の要件があります。
もしこの要件を満たしていないと、
「出来高払い制」自体が
無効となり、
残業代も一般の月給制の場合と
同様の方法で計算
し直さなければなりません。
そうなると、
昨日のブログでも取り上げた
「サカイ引越センター」の
事例のように、
多額の残業代の「差額」の
支払いを余儀なくされる
ことになってしまいます。
「出来高払い制」は、
主に営業職やドライバーの業界
などで取り入れられています。
社員との「裁判沙汰」を避けるためにも、
この「出来高払い制賃金」の
法律上の要件はきちんと
押さえておきたいものです。
それでは、
また。
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今日は、辞めたいのに辞められない「雇われ社長」をどう辞めるか、というテーマでお話ししています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。