
世の中
支払う義務はないけど
代わりに支払ってあげたい
というケースもあります。
法的な支払義務はないけれども
支払った場合に法的に有効な
弁済と扱われる「第三者弁済」
という制度があります。
(今日の「棒人間」 これも善意の支払い??)
<毎日更新1575日目>
建設会社を営むA社の社長から
ご相談をいただきました。
A社は
施主から請け負った建物の建築請負工事を
下請け会社であるB社に発注。
そして
B社はCさんを含む複数の個人の
大工に仕事を発注して建物を完成。
もちろん
A社はB社に対して
請負工事代金も支払いました。
ところが、その後
A社は、B社が契約していた大工のCさんより
報酬の支払いに関する相談を受けます。
なんと
B社が倒産してしまい
Cさんは自分の仕事の報酬を
B社から払ってもらっていない
というもの。
A社の社長としては
Cさんが可哀想になり
Cさんが本来B社から受け取るべき
報酬を代わりに支払ってあげたい
と考えています。
A社長が
Cさんに報酬を代わって支払うことは
法的に問題はないのでしょうか?
この場合
法的な原則論を言えば
A社は
大工であるCさんに対して
報酬の支払義務はありません。
なぜなら
A社はあくまで下請け会社
であるB社と契約をしており
B社に対して請負工事代金も
すでに支払い済みです。
そして
A社はCさんとの間には直接の
契約関係がないからです。
しかし
世の中にこういう事例は
よく見聞きしますね。
A社としては
「うちは関係ありません」と言って
Cさんの要望を突っぱねることも
もちろん可能です。
ただ
個人事業主で大工をしているCさんを
可哀想に思ったA社の社長としては
たとえ法的義務はなくとも
Cさんが本来受け取るべき報酬を
代わりに支払ってあげたい
と考えたわけです。
たしかに
法的な義務はなくとも
A社は元請けとして
下請け会社であるB社の倒産によって
影響を受けたCさんを救済することは
一種のA社の社会的な責任と
評価される場合もあり得るでしょう。
この点
民法では、「第三者弁済」といって
法的な支払いの義務がない
A社のような場合であっても
支払いが有効となる場合が
定められています。
その際
A社のCさんに対する
支払いが有効となるために
いくつかの要件が
定められています。
まず
その支払いが
本来支払義務を負う債務者である
B社の意思に反しないことです。
ただ
今回の件では
本来支払義務を負うB社は倒産しており
通常A社がCさんに代わって
支払うことについて
B社の意思に反することは
考えにくいでしょう。
そして
もう1つの要件は
B社とCさんとの間の契約で
この「第三者弁済」
すなわちCさんがB社以外からの
支払いを禁止する特約がないことです。
通常は
このような特約がないことが
多いでしょうから
この要件も問題ないでしょう。
そこで
結論的には
A社がCさんに支払うことは
この「第三者弁済」の要件を満たしており
法的にも有効であると考えられます。
さて
A社のCさんに対する支払いが
有効であるとしても
そもそもA社は今回の工事に関して
すでにB社に工事請負代金を
支払っています。
ですから
A社がCさんに報酬を支払うことは
一種の二重払いとなり
その分A社には経済的な損失が
生じているわけです。
この点も民法に規定があり
他人の債務を弁済した場合には
その弁済をした金額の範囲内で
本来の債務者に支払った金額の返還を
求めることができるとされています。
つまり
Cさんに「第三者弁済」を行ったA社は
本来CさんがB社に対して持っていた
報酬金の支払請求権を取得
することになります。
ですから
A社がB社に対して
代わりに支払ったCさんの報酬金の
支払いを請求することができる
ということになります。
ところが
上記のとおり
B社はすでに倒産してしまっています。
ですから
A社としては
いくら法的に支払いを請求する
権利があると言っても
実際にB社から回収
することは困難でしょう。
そこで
今回のようなケースでは
A社としては
Cさんに支払うべきかを考える場合
こうした回収のリスクもきちんと
考慮した上で支払いをすべきでしょうね。
どうしても支払いたい
という場合は
自社が損を被ることも覚悟する
必要がある場合もあるでしょう。
なお
A社がCさんに支払った報酬金は
税法上「損金」として処理できる
可能性もあるようです。
ですから
確実な証拠を残すためにも
Cさんからきちんと領収証等を
もらっておくべきですね。
それでは
また。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
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中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。