売掛先の唯一の資産である
自宅土地建物が、
妻との離婚に伴う財産分与で、
妻の名義になってしまった。
こんなとき、
売掛金を持っている債権者は、
何か方法はないものでしょうか?
(今日の「棒人間」 財産隠しは許されない?)
<毎日更新780日目>
借金を返すのは嫌だけど、自分の財産はどこかに隠しておきたい
こういう、
不届な考え方をする人は、
後を断ちません。
実際に、
借金で追い込まれると、
このような思考になって
くるのも無理はないかも
知れませんね。
先日、
ある会社の社長さんから、
取引先の売掛金の回収のことで
ご相談を受けました。
うちの取引先で、個人事業主なんですが、500万円の売掛金を支払ってくれないところがあって、困っているのです。
なるほど、なぜ支払ってくれないのでしょうか?
請求はかなりしているのですが、「今はお金がないから、もう少し待ってくれ」の一点張りなんです。
その取引先は、本当にお金がないんでしょうか?
うちで少し調べてみたのですが、今ではもうほとんどめぼしい資産はないようです。
「今では」ということは、前は何かあったのですか?
それが、この取引先の人の自宅の登記簿を調べてみたところ、少し前に自宅の土地建物が、離婚した妻に財産分与されていることがわかったのです。
なるほど、もともと取引先の人の名義の自宅だったのが、離婚に伴う財産分与でこの人の妻の名義に変わってしまったと。
そうなんですよ。こちらの売掛金は支払っていないのに、ひどい話です。
こういうのって、何とかならないのでしょうか?
財産隠しじゃないですか?
詐害行為取消権といって、たとえば借金の返済を逃れるために自分の財産を処分したような場合は、その行為を取り消して、その財産から借金を回収できるようにするという制度があるにはあります。
なるほど、そんな制度があるのですか。
ただ、この詐害行為取消権は、たとえば売買とか贈与などの財産権を目的とする行為に適用されるものとされています。この点、離婚に伴う財産分与は、家族の身分行為が絡むので、少々やっかいです。
え、それじゃあ、その制度は私のケースでは使えないのですか?
いや、必ずしもそうとは言えません。
離婚に伴う財産分与でも、その分与が不相当に過大であり、実質的には借金逃れのための財産処分行為であると判断されると、この詐害行為取消権を使うことができる場合もあります。
あちこちに借金を抱えて
債務超過の人が、
唯一の資産である自宅の
土地建物を売却してお金に
換えてしまった。
お金を貸している債権者としては、
いざとなったらこの自宅の
土地建物を差し押さえて、
そこから回収しようと
思っていたのに、
その前に売却されてしまっては
大変に困るわけです。
債権者としては、
自分の債権回収の
引き当てとなる財産(自宅土地建物)
を保全する必要がでてきます。
そこで、
このように債務者が債権者に
損害を与えることを知った上
で行った行為、
すなわち唯一の資産である
自宅土地建物の売却を
取り消すことを請求することが
できます。
これが、
詐害行為取消権と
言われる制度です。
ただ、
この詐害行為取消権は、
実際上は要件が結構厳しく、
ハードルが高いです。
まず、
この詐害行為取消権を
行使するためには、
必ず裁判所に申し立てを
行わなければいけません。
また、
上記の例で、
自宅土地建物を買い受けた
第三者のことを「受益者」
と言いますが、
この「受益者」も、
この売却が債権者を害する
ということを知っている
必要があります。
もしこの「受益者」が、
上記の500万円の売掛金の事実や、
自宅土地建物が債務者の唯一の
資産であることなどの事情を
知らなかった場合には、
この詐害行為取消権を
行使することはできません。
これは、
「受益者」の立場からしてみると、
まったく何も事情を知らずに
債務者を信頼して不動産を購入
したにもかかわらず、
後からまったく自分の
預かり知らない事情でその売買が
取り消されることになるわけです。
もしそうなっては、
安心して不動産を購入
することができず、
取引社会の安全を
害することになります。
ですから、
何も知らずに購入
した第三者は法律上は
保護されるように
なっているわけです。
また、
この詐害行為取消権の
対象となるのは、
売買や贈与といった財産権を
目的とした行為でなければ
ならないとされています。
離婚に伴う財産分与というのは、
婚姻生活における夫婦間の
財産の清算という意味があり、
一種の家族や身分に関する制度です。
家族や身分に関する制度の場合は、
当事者の意思を尊重する
必要があることから、
原則としてこの詐害行為取消権は使えない、
とされています。
しかし、
実際の世の中では、
たとえば債権者から財産を
とられるのを免れるために、
妻と偽装離婚をして、
財産分与で自分の資産を
そちらに移してしまう、
ということがやられたりします。
そうなると、
債権者はもはや一切手が
出せなくなってしまいます。
そのような結論は、
いくらなんでも不当でしょう。
そこで、
例外的に離婚に伴う財産分与が
詐害行為として取り消される
場合があるとした
最高裁の判例があります。
すなわち、
それが財産分与の民法の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分行為であると認めるに足りる特段の事情がある場合
には、
詐害行為取消権の対象に
なり得るとしたものです。
離婚に伴う財産分与は、
通常は婚姻期間中に形成された
財産を1/2ずつで分けるのが
通常です。
ですから、
夫(債務者)唯一の資産が
自宅土地建物である場合、
その全部を妻に財産分与
してしまうというのは、
一般的には「不相当に過大」な
財産分与であるとされる
可能性は高いでしょう。
したがって、
例外的に詐害行為取消権が
使えるケースであろうと
思われます。
財産があるにもかかわらず、
借金から逃れるために
不当に財産隠しをする、
やはりこんなことは
許されてはいけませんね。
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今回は、会社の顧問弁護士の表示をする5つのメリット、というテーマでお話しています。
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私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。