その会社の権限がない社員が、
他社と契約を結んでしまった場合、
権限がない以上、
原則としてその契約は
無効になります。
しかし、
その社員に、
「支店長」や「営業所長」などの
権限がありそうな肩書きが
付されていた場合には、
例外的に契約が有効となる
余地があります。
(今日の「棒人間」 権限のない人との契約に要注意?)
<毎日更新881日目>
その契約は、うちの社員が決済を受けずに勝手にやったもので無効です。
我が社は関係ありません!
先日、
顧問先のA社長より、
ご相談を受けました。
実は、最近新規で取引を始めた取引先とトラブルになっていまして、ご相談です。
それは大変ですね。
どんなトラブルでしょうか?
ある会社から営業を受けまして、取引を始めることになったのです。
その営業マンは、「●●株式会社 ●●営業所長」の肩書を持っていた人です。
なるほど、「営業所長」の肩書があったわけですね。
そうなんです。当然その会社で権限のある人だと信頼して、契約書を結んで、取引を始めたんです。
なるほど、それで、どうなりました?
それが、先日、その取引先の別の人から連絡があって、あの契約書はその「営業所長」が会社の決済を受けずに勝手に結んだものだから、無効だと言うのですよ。
なるほど。
うちとしては、今さらそんなことを言われても、取引の準備などでお金も人も使ってますし、大変困ってしまいます。
こういう場合って、契約はどうなるのでしょうか?
そうですね。
その取引の内容にもよりますが、「営業所長」という肩書きがある人であれば、法律によって適法な会社の代理権がある人、とみなされる可能性があります。
なるほど。
もちろん、「営業所長」であっても、その取引について実際には会社から契約を結ぶ権限を与えられていなかったという場合もあり得ます。
しかし、それは会社の内部事情であって、そんなことを知らない取引相手は、法律で保護されるようになっているのです。
そもそも「契約」というものは、
原則として当事者間の意思が
合致することによって
成立します。
単純に、
ある物の売買契約であれば、
売主の「その物を売りましょう」
という意思表示と、
買主の「その物を買いましょう」
という意思表示が合致することで、
法律上契約が成立するわけです。
この点、
会社というのは、
「法人」ですから、
「意思表示」というものが
観念しづらいとも思えます。
ただ、
法律上は、
会社のような法人に人格が
あるものとみなして、
会社の代表権を持っている人が、
会社の代表者として会社の
意思表示を行っている、
と考えられています。
代表権のある人が行った契約は、
会社自身に法的効果が及ぶ
ことになりますので、
会社の代表者がした契約は、
会社が結んだ契約として
効力を生じます。
会社の代表権があるのは、
通常は社長、
すなわち代表取締役とか、
代表権のある取締役の地位に
ある人のことを指します。
ただ、
会社の規模によっては、
社長がいつもすべての契約締結に
直接関わらなければならない、
というのは不便だったりします。
そこで、
会社の代表者が、
特定の取引とか契約を結ぶ権限を、
社員に委任する(任せる)
ことがあります。
もし、
こういった権限を
与えられていない社員が、
会社の代表者の許可を受けずに、
勝手に他社と契約を締結した場合、
会社の契約としては、
原則として無効となります。
ところが、
その社員が、
その契約を結ぶ権限を
与えられているかどうかは、
その会社の内部事情であって、
外部の取引先にはわかりません。
特に、
「支店長」とか「営業部長」といった、
社内で一定の権限があるだろうと
推測されるような肩書を持った社員が
契約をした場合、
通常取引相手としては、
そうした肩書を信用して
契約をするのが通常です。
それにもかかわらず、
後になって、
いやいや、あれはうちの社員が許可を受けずに勝手にやったこと。
うちの会社は知りません。
なんてことを言われてしまうと、およそ安心して取引をすることができなくなります。
そこで、会社法13条という法律で、
会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人は、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
と定められています。
わかりにくい法律の条文ですが、
まず「使用人」というのは、
社員とか従業員のことと
考えていただいて構いません。
「会社の本店又は支店の事業の
主任者であることを示す名称」
というのは、
まさに「支店長」とか、
「営業所長」のように、
外部から見て一定の権限が
ありそうな肩書のことを指します。
「一切の裁判外の行為を
する権限を有するものとみなす」
というのは、
要するに、
もし実際には権限がなかったとしても、
その取引や契約を結ぶ権限が
あったものと法律上みなす、
ということです。
「みなす」というのは法律用語で、
実際には違っていても、
法律上はそのように扱いますよ、
という意味です。
また、
「相手方が悪意であったときは」
これもわかりにくいですね。
「悪意」というのは、
「知っていた」ということを
意味する法律用語です。
悪気があるとか、
悪い人といった意味は
一切ありませんので、
注意が必要です。
話は脱線しますが、
なんでこんなわかりにくい言葉を
法律が使っているのかと言うと、
明治時代に海外(特にドイツ)から
法律を輸入して、
直訳したときの名残なのです。
あの時代は、
日本が急激に近代化を
進めていた時代で、
欧米風の法律の整備も非常に
急いで行ったため、
突貫工事でドイツ法などを
直訳して日本の法律を作った、
という事情があるのです。
それはさておき、
例外的に、
もし取引相手が、
その契約をした人に権限がないことを
知っていた(悪意だった)場合には、
権限があったとはみなさないよ、
つまり、
契約は原則に戻って無効だよ
と言っているのが後段です。
ですから、
結論的には、
上記のA社長のようなケースは
救われることが多いでしょう。
ただ、
実際の取引社会においては、
やはり権限のない社員が
会社の決済を得ずに勝手に
契約をしてトラブルになる、
という事例が時々あります。
こうしたトラブルを避けるためにも、
やはりその社員に契約を結ぶ
権限があるかどうか、
事前に会社に確認しておいた方が
無難であろうと思います。
それでは、
また。
裁判しないで解決するノーリスクプロモーター・弁護士 吉田悌一郎のプロフィール
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今回は、本当のプロは、知らないことを「わかりません」と言えること、というテーマでお話しています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。