株式会社の役員の報酬は
原則として株主総会の
決議が必要となります。
株主総会の決議がないのに
役員報酬を受け取ってしまったら
どうなるのでしょうか?
(今日の「棒人間」 違法な役員報酬の返還を請求される??)
<毎日更新1164日目>
京都市の観光地である嵐山で
鵜飼い見物線を運行する
「嵐山通船」という会社。
この会社の前社長らが
株主総会決議で認められた額を
超える役員報酬を受け取って
いたのは違法だとして
会社から損害賠償請求の
裁判を起こされました。
先日
この裁判で
前社長に1369万円の支払いを
命じる判決がありました。
報道によれば
この会社では
1981年開催の定時株主総会で
社長の報酬を年600万円とする
と決議されたそうです。
ところが
その後2017年1月に代表取締役に
就任した前社長は
2020年4月に解任されるまで
同額以上の役員報酬を
受け取っていたとのことです。
前社長は
自身が就任するまでに
開かれた株主総会で
報酬増額が決議されたと
主張しました。
しかし
判決では
株主総会決議がされた旨の記載がある総会議事録は存在しない
として
前社長の主張を退けました。
ちなみに
この嵐山通運という会社の前社長
以前も会社の経費を
私的に流用したということで
賠償命令が出ており
過去の私のブログでも
取り上げたことがありました。
【前社長に賠償命令】社長が会社を「私物化」することのリスクとは?
会社法上
取締役などの役員の報酬は
会社の定款で定めるか
株主総会の決議で決める
必要があるとされています。
実際には
定款で役員報酬について
定めることは稀ですので
役員報酬は株主総会の決議が
必要であるということになります。
すなわち
代表取締役(社長)が勝手に
決めるということは
原則としてできない
ことになっています。
これは
もし取締役が役員報酬を
決定できることになると
いわば自分たちの報酬を
自分たちで決めることになります。
そうすると
不当に高額の報酬を決定してしまい
会社に損害を与える
おそれがあるからです。
(これを,「お手盛りの弊害」
などと呼ばれています)
ただし
個々の取締役の具体的な金額などもすべて
株主総会で決定しなければならない
とするのは面倒ですし
現実的ではありません。
そこで
株主総会で役員報酬の
総額を定めておけば
具体的な金額の決定は
取締役会にゆだねることが
できるとされています。
以上が会社法の定めですが
実際には
中小企業の実務では
株主総会をきちんと開催しない
場合が少なくないと思います。
少数の運営で
たとえば親族中心の経営である
ような会社の場合は
会社運営に特に異論のない状況であれば
特にそれでも問題なく会社の
運営は行われていくでしょう。
しかしながら
ひとたび会社内において争いが
起きたような場合には
役員報酬についてこの
株主総会決議がないことが思わぬ
ネックとなるので注意が必要です。
それでは
代表取締役などが
株主総会の決議がないにもかかわらず
役員報酬をもらってしまったら
どうなるのでしょうか?
この点
総会決議に基づかない役員報酬は
法的に無効ということになります。
具体的によくありがちな紛争としては
中小零細企業などで
役員間や株主間で内紛が生じた場合です。
この場合
反対派株主が
現行の役員の役員報酬について
過去分についても株主総会決議を
経ていないので違法であるとして
役員報酬を会社に返還しろと
請求するようなケースが考えられます。
ただし
例外もあります。
たとえば
株主総会決議を経ないで
支払われた役員報酬であっても
その後事後的に株主総会の決議を経れば
遡って支払われた役員報酬は適法なもの
であるとした裁判例があります。
これは
事後的であっても
株主総会の承認を得られるのであれば
取締役による「お手盛り」の
弊害を防止できるからです。
さらに
仮に株主総会の決議がなくても
株主全員の同意があれば
役員報酬の支払いは有効だ
とした裁判例もあります。
しかし
これらの事例は
いずれも会社内で紛争や争いが
起こっていない事案です。
株主間で紛争が起こっている場合には
同意は得られませんし
事後的でも株主総会決議を
経ることは不可能です。
そんなわけで
これらの事例はあくまで例外です。
株主総会を経ずに役員報酬を
決定していると
後に何らかのトラブルに
巻き込まれた場合に
支払われた役員報酬がすべて無効と
なってしまいかねません。
そうすると
もらった役員報酬を会社に
返還しなければならないといった
事態に陥る可能性も出てきます。
そこで
無用な紛争を予防するためにも
役員報酬はきちんと株主総会で
決めておくことが必要だと考えます。
たしかに
中小零細企業にとって
毎年株主総会を開催することは
面倒だとは思います。
しかし
株主に対する総会招集通知や
総会議事録の作成など
ある程度業務を定型化しておけば
それほど面倒ということはありません。
むしろ
きちんと株主総会を開催しているということは
中小企業にとってはコンプライアンス経営
健全経営を実践していることを
内外にアピールするチャンスであると思います。
それでは
また。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。