建物賃貸借で、借主が建物を退去する際には「立退料」がもらえる、と勘違いしている人がいます。
「立退料」がもらえる場面と、もらえない場面があります。
今日はその辺のことについて深堀してみたいと思います。
(20年前に住んでいた佐賀県のアパート。退去するときに「立退料」はもらってません)
<毎日更新595日目>
先日、とある会社の社長より、オフィスの移転に関するご相談を受けました。
(守秘義務がありますので、ご相談内容は大幅に変えています)
この会社では、オフィス用の建物を借りているのですが、今度ここを出て別の場所にオフィスを移転する予定だそうです。
今のオフィスがちょっと手狭になったので、近くのビルに近々引っ越す予定なのです。
なるほど、オフィスの移転ですね。
それで、今のオフィスが入っているビルのオーナーとの間で、退去の話を詰めているところなんですが、先日近所の人からちょっと噂を聞いたのです。
噂、というのは?
それが、近所の人が言うには、うちのオフィスが入っているビルは場所が駅から近くて良い場所にあるので、出て行くにあたって、大家さんから立退料をもらった方が良い、と言うのです。
立退料ですか。
そうなんです。
うちの会社の近隣で、退去するときに数百万円の立退料をもらった、という事例もあるそうなんです。
なので、うちももしかしたら立退料をもらえるのではないかと思って、ご相談してみたんです。
あの、立退料というのは、あくまで貸主側の都合で賃貸借契約を解除して、借主に出て行ってもらうという場面で出てくる話なのです。
そうなんですか。
今回は、借主である御社の側の都合で、賃貸借契約を解除して建物を明け渡すという場面です。ですから、残念ながら今回は立退料を請求することはできませんね。
建物の賃貸借の場面では、借地借家法という法律が適用されます。
この借地借家法は、借主を保護する法律なので、逆に貸主には厳しい制限を貸している法律です。
その典型的な場面が、賃貸借契約を期間の中途で解約するような場合です。
賃貸人が賃貸借契約を解除する場合には、まず6ヶ月以上前に借主に解約の申し入れをしなければなりません。
その上で、賃貸人からの契約の解除が認められるためには、次の要件を満たす必要があります。
すなわち
(借地借家法28条)
そして、上記で赤字で書かれた部分「建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付」のことを、俗に「立退料」と言ったりします。
要するに、貸主が借主に対して、今回は貸主側の都合で、申し訳ないけど賃貸借契約を解除して建物を出て行ってほしいので、ついてはいくらの金銭を支払います、というのが「立退料」なわけです。
あくまで賃貸人側から、建物の立ち退きを求める場合に発生しうるのが「立退料」です。
逆に、冒頭のご相談事例のように、借主の都合で建物を退去するという場合には、「立退料」というものは発生しません。
なぜなら、借主が立ち退きを希望している場面なので、貸主が「立退料」を支払わなければならない理由はないからです。
というわけで、
今日のポイントは
ということです。
ところが、世の中では、「立退料」という言葉が一人歩きしてしまい、借主が建物を退去するときには、多額の立退料を請求できるのだ、と誤解している人がいます。
「立退料」が発生し得る場面はどんなときなのか、押さえておきたいものですね。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。