新たに社員を採用する際に、
会社はその社員の病歴
など健康情報には、
当然関心を持っています。
しかし、
こうした個人情報の調査を
むやみやたらと行うと、
不法行為となり、
社員とのトラブルを
招きますので、
注意が必要です。
(今日の「棒人間」 健康情報は大事??)
<毎日更新955日目>
先日、
不動産業を営む会社の
A社長よりご相談が
ありました。
実は、うちで営業職の社員を新たに中途採用するのですが、その新入社員の健康調査をしたいと思いまして。
健康調査ですか?
はい。実は、前にうちにいた営業担当の社員が、メンタルを病んで会社を退職してしまったことがありまして。
なるほど、今メンタル疾患は多いですからね。
営業職となると、いろいろなお客様と接することになるので、結構メンタルがタフでないとやっていられない部分があるんですよ。
なるほど、まぁそうでしょうね。
ですので、やはり新たに採用する社員のメンタルヘルスをチェックしたいのです。
なるほど。具体的には、どんな方法でチェックすることをお考えでしょうか?
そうですね、まず過去の病歴、特にメンタル疾患の病歴の申告を求めた上で、医師による簡単なメンタルヘルスチェックを受けさせたいと思っているのです。
なるほど、わかりました。
社長、お考えはよく理解できるのですが、他方で、今は個人情報の取り扱いなどが大変厳しい時代になっています。
私のやり方ではマズいでしょうか??
そうですね、これを強制的にやってしまうと、個人情報保護法に違反するだけではなく、社員の人格権やプライバシー権を侵害する不法行為となってしまう可能性があります。
なるほど。
ですから、強制的にではなく、必ず社員の方に健康調査の趣旨や目的を説明して、その社員の「同意」を得た上で行うべきですね。
なるほど、よくわかりました。
近年、
メンタル疾患になる人が
増えています。
日本では、
精神疾患の総患者数が、
2020年に614.8万人に
増加したとのデータもあります。
その原因としては、
経済の低迷、
競争社会の激化、
孤独な人の増加など
などいろいろな原因が
言われています。
特に、
2020年から始まった
コロナ禍で、
外出自粛要請によって、
多くの人々のメンタルに
悪影響を与えたことが、
近年のメンタル疾患急増の
原因ともされています。
これから社員を雇いたい、
という会社の場合、
やはり健康で長くバリバリ
働いてもらいたい、
というのが会社の
本音でしょう。
コストをかけて
社員を雇っても、
短期間で体調を
崩して休職されたり、
退職されてしまっては、
特にリソースが限られた
中小零細企業にとっては
大きな痛手になります。
ですから、
正直に言えば、
新たに社員を雇おうとする時、
その社員の過去の病歴とか、
メンタルヘルスの状態などに、
会社としては関心を
持たざるを得ません。
しかし、
他方で、
個人の病歴というものは、
重要な個人情報です。
むやみやたらと開示を
求めることができる、
というものではありません。
実際、
個人情報保護法では、
こうした個人情報について、
として、
「要配慮個人情報」に
指定しています。
そして、
個人情報保護法の20条2項では、
こういった病歴などの
「要配慮個人情報」については、
あらかじめ本人の同意を
得ないで取得することは
禁止されています。
また、
それ以外にも、
不正な手段でこうした
病歴などの情報を
取得した場合には、
その社員の人格権や
プライバシー権を
侵害するものとして、
不法行為に該当します。
過去の裁判例では、
本人の同意なくHIVの
抗体検査をしたケースや、
B型肝炎のウィルス検査を
行ったケースで、
不法行為が認定されています。
とは言え、
上記のようにメンタル疾患に
かかる人が増加しています。
そうなると、
やはりメンタルに大きな負担が
かかりそうな営業職などの場合、
会社としては、
新たに社員を雇う際に、
その社員の健康情報を取得する
必要性は高いと言えます。
せっかく社員を採用しても、
実はその社員にうつ病歴があり、
新たな業務を行なっている
うちにそのうつ病が
再発してしまう、
などということも
あり得ます。
そのようなことは、
採用された社員ご本人の
ためにもなりません。
そこで、
社員を採用する際に、
過去の病歴の申告を求めたり、
医師による簡単な
メンタルヘルスチェックを
受けさせることも可能
とされています。
ただ、
会社がむやみやたらとこうした
「要配慮個人情報」を
集めてよいのではなく、
あくまでそれが会社の業務の
目的の達成に必要不可欠な
場合に限られます。
さらに、
これらの調査は、
必ず本人から事前の
同意を得た上で行う
必要があります。
具体的には、
会社はその社員に対して、
調査の目的や必要性の根拠
などを丁寧に説明する
ことが必要です。
その上で、
調査に応じるかどうかの
自由を与えつつ、
同意が得られた場合のみ、
調査を行うべきです。
会社として、
新たに社員を雇う際に、
その社員の病歴や
メンタルヘルスの情報を
調査したいのは
よくわかります。
しかし、
やり方を間違えると、
個人情報保護法違反となり、
さらに社員の人格権や
プライバシー権を侵害する
ことになりかねません。
社員との「裁判沙汰」など
トラブルを予防するためにも、
病歴のような「要配慮個人情報」
の調査は、
慎重かつ丁寧に
行いたいものです。
それでは、
また。
裁判しないで解決するノーリスクプロモーター・弁護士 吉田悌一郎のプロフィール
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今回は、労働基準法が、ランチタイムが混む原因を作っている??というテーマでお話ししています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。