建設工事契約で
契約締結後に原材料費が高騰し
このままでは赤字の工事に。
見積もりが甘かった!
こんなとき
当初の契約を変更して
工事代金の増額を求めることが
できるのでしょうか?
(今日の「棒人間」 見積もりが甘かった⁉︎)
<毎日更新1067日目>
世の中
相変わらず
日常生活周りのあらゆる分野で
「物価上昇」が進んでいますね。
一般の市民の生活だけではなく
たとえば建設業などでも
原材料費の高騰が深刻な状況に
なっているようです。
建設会社を営んでいるA社長。
取引先との間で工事を受注し
契約書を作りました。
(私の事務所周辺の渋谷再開発工事)
ところが
いざ工事が始まってみると
原材料が思った以上に高く
このまま行くと赤字の工事になりかねない。
要は
最初に工事代金額を決める際の
見積もりが甘かった。
そこで
A社長としては
契約締結後ではありますが
工事代金を原材料費高騰に
合わせて変えてもらいたい。
要するに
契約後に工事代金を
値上げしたいということです。
このようなことは
法的に可能でしょうか?
この点
いったん当事者間で「契約」を結ぶと
法的な拘束力が発生します。
どういうことかと言うと
最初に建築請負契約を結ぶ段階で
工事代金の価格も決められます。
そして
いったん契約で代金額を決めた以上
当事者の一方が勝手にそれを
変更することはできません。
これがまさに
契約の法的な拘束力
というものです。
常識的に考えても
いったん結んだ「契約」を
当事者の一方が勝手に変更で
きるというのであれば
「契約」を結ぶ意味がないですよね。
とは言え
契約時に予測できなかった
ような原材料費の高騰が
契約締結後に起こるということは
現実にあり得ます。
そのような場合にまで
契約の拘束力をつらぬくとどうなるか?
リスクがあるのでそもそも
「契約」ができないとか
契約時に代金額が決められない
というようなことになってしまいます。
このような事態に備えて
あらかじめこうした契約後の値上げが
あり得ることを想定した契約書を作る
という方法があります。
すなわち
建築工事請負契約書の中で
将来の増額の可能性がある
という条項を入れておくこと。
つまり
契約後に急激な原材料費の
高騰が生じた場合などに
請負代金の増額を求めることができる
という内容を入れてくというものです。
具体的には
契約書の中に
物価、賃金が変動し、請負代金が適当でないと認められるときに工事金額を変更することができる
という規定を入れておきます。
この点
中央建設業審議会(中建審)が出している
「民間建設工事標準請負契約約款・甲」にも
次のような規定が置かれています。
(請負代金額の変更)
第三十一条 発注者又は受注者は、次の各号のいずれかに該当するときは、相手方に対して、その理由を明示して必要と認められる請負代金額の変更を求めることができる。
五 契約期間内に予期することのできない法令の制定若しくは改廃又は経済事情の激変等によって、請負代金額が明らかに適当でないと認められるとき。
それでは
契約書でこうした条項を
入れていなかった場合は
どうしたら良いのでしょうか?
先ほども見たとおり
上記のような金額変更に関する
取り決めをしていない限り
いったん契約で決まった金額を、
当事者の一方的な意思のみで変更することは
できないのが原則です。
しかし
例外的に
という考え方があります。
これは
とする考え方です。
極めて例外的な場面ではありますが、
裁判例でも認められている考え方です。
この事情変更の原則が
適用されるための要件は
の3つを満たす必要があります。
たとえば
極めて短期間における
原材料費の急激な高騰があり(①)
それが契約当初予見不可能
である場合(②)には
契約時の金額を一切変えないということは
ときに信義則に反する結果となり得る
と考えます(③)。
いやいや弁護士さん、現実はそんなに甘くないですよ。
そんな理屈どおりに行くものではないです。
という声が聞こえてきそうですね。
たしかに
これらの法律的な理屈があっても
実際上は
契約で決めた金額を後で増額する
ような交渉は簡単ではないと思われます。
しかし
交渉をする際の一材料として
こうした法律的に契約内容の改訂を
求めることができる「理屈」を知っておく
ことも重要かと思われます。
さて
相手方との交渉がうまくいって
契約後ではあるが
もし相手方が代金の値上げに
応じてくれた場合は
どうしたら良いでしょうか?
この場合に
当初結んだ契約書を巻き直す
つまり一から作り直さなければな
らないのでしょうか?
途中で代金額を変更した
というだけで
契約書を一から巻き直すのは
面倒ですよね。
契約書を作るには
印紙代もかかりますので
バカになりません。
相手方からも
そんな面倒なことを言うんだったら、やっぱり値上げに応じないよ。
と言われてしまいそうです。
そこで
そのような場合は
一から契約書を作り直さなくても
たとえば「覚書」や「契約変更合意書」
という書面を作っておくことを
お勧めします。
そこで
たとえば、
本件建築請負工事契約第●条記載の工事代金額を、金●円に変更する。
と記載しておけばよいでしょう。
大切なことは
当事者間で契約後に値上げの
合意ができた場合は
その変更をきちんと「証拠」に残す
ということです。
後になって
取引先から
え、そんな値上げなんて知らないよ!
と言われてしまうと
トラブルになってしまいます。
最悪
「覚書」や「合意書」を作ることが
できない場合には
メールやメッセージなどで
金額を変更したことを記載しておき
それを保存しておくことです。
相手方と交渉して
契約後の値上げを承諾してもらえた。
しかし
そこで喜ぶのはまだ早いのです。
物ごとは
やはり「詰め」が肝心。
「詰め」が甘いことで
後々トラブルや「裁判沙汰」に
なってしまうことがあります。
契約後の変更をしっかりと「証拠」に残す。
最後まで気を抜かずに「詰め」を
しっかりやっておきたいものですね。
それでは
また。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。