大成建設の元社員に対して行った、
海外留学費用の返還請求。
この留学費用と、
未払いの給料やボーナスとを
相殺したことが問題となっています。
果たして、
このような相殺は
許されるのでしょうか?
(今日の「棒人間」 留学費用を返して?)
<毎日更新790日目>
会社の研修制度を利用して、会社のお金で海外留学。
留学中に、MBAを取得したんで、会社辞めます!
大成建設の元社員の男性が、
社外研修制度を利用した
海外留学から帰国後に、
1ヶ月程度で会社を退職。
この点、
大成建設では、
社員が研修制度で留学した場合、
復職後5年以内に
自己都合退職した場合には、
留学費用を返還すること。
そして、
その場合には留学費用と
賃金との相殺についても
異議を申し立てないという
誓約書を交わしていたそうです。
そこで、
会社は、
この男性の留学費用などの
返還を請求し、
一部を未払いの給料や
ボーナスと相殺。
ところが、
この男性は、
相殺は不当だとして会社に
未払いの給料などの
支払いを請求。
他方で、
会社は、
相殺した上でまだ未払いの
留学費用残額などの
支払いを請求。
両者の請求が
裁判で争われました。
先日、
この件の最高裁の判断が出て、
留学費用を未払い給料などと
相殺することは適法としました。
そして、
逆に元社員の男性に、
未払いの留学費用などの
支払いを命じました。
ここで問題となるのは、
賃金の直接全額払いの原則を
定めた労働基準法24条
との関係です。
すなわち、
労働基準法24条では、
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
と定められています。
これは、
賃金というのは、
労働者の生活の糧
となるものなので、
基本的に賃金からの
天引きなどせずに、
全額を支払わなければならない、
という原則を定めたものです。
小規模な会社などでも
よく問題となるのが、
社員が仕事中に誤って
会社の備品などを壊して
しまった場合。
社長が激怒して、
バカヤロウ!この機械いくらすると思ってんだ!
弁償しろよ!
お前の来月の給料から天引きしとくからな!
というもの。
この場合、
確かに、
会社は社員に対する
賃金支払い義務を負う反面、
壊された機械の弁償という
損害賠償請求権を持っています。
しかし、
賃金と、
この損害賠償請求権を
相殺してしまうことは、
上記の賃金の全額払いの原則
に違反しており、
認められない、
とされているのです。
ですから、
上記の大成建設の例でも、
留学費用を未払いの給料と
相殺することが許されるのか、
この賃金の全額払いの原則に
反しないのでしょうか?
特に、
労働者の側で相殺することに
同意していた場合はどうか、
という点が問題となってきます。
この点、
最高裁の判例があり、
には天引きをすることも
例外的に許されるとしています。
今回の大成建設の事例でも、
事前に、
復職後5年以内に
自己都合退職した場合には、
留学費用を返還すること。
そして、
その場合には、
賃金との相殺についても
異議を申し立てないという
誓約書を交わしていた
ということです。
ですから、
社員の自由な意思による
同意であるとされ、
給料との相殺も有効である
とされたわけです。
この点、
実務的にも、
もし会社側が社員の給料から
相殺をしようとするときは、
社長の勝手な判断でやって
しまうことはNGです。
必ず、
社員さんから、
「相殺に異議なし」という誓約書を
もらっておくことを
忘れないようにすべきです。
ただし、
会社から社員に対する損賠賠償請求は、
被った損害の全額を請求できる、
というものではありません。
この辺のことについて
詳しく知りたい方は、
下記の過去記事を
参考にしてください。
さて、
上記の大成建設の最高裁の判断ですが、
元社員に留学費用の返還を命じ、
給料との相殺を有効とした結論は
妥当なものだろうと考えます。
この社員の場合、
会社の留学制度を使ってMBAも取得し、
会社を辞めてさらにステップアップの
転職なりなんなりができると判断して、
会社を辞めたと考えられます。
つまり、
上記の賃金全額払いの原則を
厳しく貫く必要がそれほど
高くない事例、
と考えることもできます。
また、
大手企業で海外留学制度まで
利用する社員です。
そうであれば、
事前に、
復職後5年以内に
自己都合退職した場合には、
留学費用を返還と賃金との
相殺についても、
十分にその意味を理解して
約束していたものと
考えられます。
他方で、
会社からしてみれば、
会社のお金で社員を
留学させるのは、
一種の会社にとっての
投資でもあり、
自社の社員として今後会社の
発展に貢献してくれることを
期待してのことでもあるわけです。
それが、
留学後復職してから1ヶ月程度で
辞められてしまっては、
会社としては大きな痛手でしょう
(まぁ、大企業なので実際には
大したことはないでしょうが)。
ですから、
会社としては、
それならば留学費用は返してくれ、
と言いたくなるのは
よくわかりますね。
それにしても、
会社の留学制度を利用していながら、
復職後1ヶ月で辞めてしまう、
というのは少し露骨でもありますね。
個人的には、
5年くらい我慢
できなかったのかなぁ〜、
などと思ってしまうのですが。
それでは、
また。
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今回は、チャットGPT VS 弁護士 チャットGPTはあなたを守ってくれるか? そんなテーマでお話しています。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
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私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。