契約書の思わぬ読み違いが「裁判沙汰」に?
実は
契約書の意味を正しく理解するには
国語だけでなく数学の論理的思考が
役立つことがあります。
今回は
「ベン図」を使って
契約書の読み方をわかりやすく
解説してみたいと思います。

(今日の「棒人間」 ベン図を描く棒人間?)
<毎日更新1906日目>
建設業を営むA社の社員の就業規則には
次のような定めがありました。
社員が、業務上の横領をしたこと、かつ会社に対し合理的な弁明の機会が与えられたにもかかわらずこれに応じなかったことをもって、懲戒解雇とすることができる。
この会社で
社員Xによる横領事件が発生。
A社の社長は上記の定めに基づき
横領行為があったのだから
懲戒解雇が可能だと判断し
即Xを懲戒解雇。
その後
Xは不当解雇を主張してA社を提訴。
判決では
A社はXに対して「合理的な弁明の機会を
与えていない」ことを理由に
懲戒解雇は無効であると
判断しました。
また
フランチャイズ事業を行っている
B社の加盟店との契約書には
下記の定めがありました。
加盟者は、本部の重大な債務不履行があった場合、または加盟後1年以内であって加盟者に帰責事由がない場合、違約金なく契約を解約できる。
B社では
加盟後半年で退会を申し出た
加盟店がいました。
そこでB社は
上記の定めに基づき
本部側には落ち度がないので
加盟後1年以内の退会ならば
違約金を請求できると判断し
実際に加盟店に対して違約金を請求。
しかし
加盟店側からは
1年以内の退会でしかも加盟店側に
「帰責事由」がないので
違約金請求は不当であると争われました。
上記の例は
いずれも就業規則や契約書の内容を読み違えて
会社が間違った経営判断をして
しまったという事例です。
その大きな原因としては
日本語の「または」と「かつ」の使い方が
曖昧になっていることがあります。
ここで質問ですが
と
では
どちらの方が当てはまる人が多いでしょうか?
整理しますと
「または」は英語の「or」
「かつ」は英語の「and」を意味します。
ですから
上記の例では「18歳未満または高校生」
の方が対象が広いことがわかります。
世の中には
18歳未満でも高校生ではない
という人がいますが
そういう人は「18歳未満かつ高校生」という
カテゴリーには入らなくなってしまうからです。
そこで
冒頭の2つの例ですが
「ベン図」という図を描いて
単純化してみると
非常にわかりやすくなります。
「ベン図」とは
集合どうしの関係を
重なり合う円で視覚的に
表した図のこと。
たとえば
上記の「 18歳未満または高校生」を
「ベン図」で表すと
このようになります。

「または」ですから
18歳未満でも
高校生でも
その両方でもすべて対象に
なることがわかります。
これに対し
「18歳未満かつ高校生」の
「ベン図」は以下のようになります。

「かつ」ですから
対象となるのは18歳未満で
しかも高校生の人。
つまり
上記の「ベン図」で2つの丸の重なり合う
青で表現された部分がその対象
ということがわかります。
それでは
冒頭の2つの事例についても
「ベン図」を使って整理してみましょう。
まず1番目の
社員を懲戒解雇できる場合について。
社員が、業務上の横領をしたこと、かつ会社に対し合理的な弁明の機会が与えられたにもかかわらずこれに応じなかったことをもって、懲戒解雇とすることができる。
この場合は「かつ」ですから
「ベン図」で表すと下記のようになります。

つまり
この場合に社員を懲戒解雇できるのは
社員が業務上の横領をしたことに加え
会社に対する合理的な弁明の機会が
与えられたのにこれに応じなかった
という2つを満たす場合。
要するに上の図の丸が重なり合う
青色の部分に限定される
ということになります。
これに対し
2番目のフランチャイズ契約で
加盟店が違約金を払わないですむ場合。
加盟者は、本部の重大な債務不履行があった場合、または加盟後1年以内であって加盟者に帰責事由がない場合、違約金なく契約を解約できる。
この場合は「または」ですが
「ベン図」で表すと下記のとおりとなります。

要するに
加盟店としては
本部の重大な債務不履行があった場合
あるいは加盟後1年以内であって
加盟者に帰責事由がない場合のどちらか
あるいは両方を満たす場合には
違約金を支払わずに解約することが
できることがわかります。
これは、実は「集合」という数学的な思考法をもとにしています。
「集合」とは
ある条件に当てはまるものの
集まりのことを意味します。
「かつ」や「または」は
まさにこの「集合」を
つなげる意味を持ちます。
そして
「または」というのは
2つの集合を合体させて
どちらか一方にでも入って
いれば対象となるもので
「和集合」と言ったりします。
これに対し
「かつ」は
2つの集合が重なっている部分
だけを取り出す操作であり
「積集合」と呼ばれます。
このように
法律や契約書の世界では
意外に数学的な論理的思考を
使うことがあります。
そして
その使い方を間違えると
まったく違った意味合いとなってしまい
法的な解釈を決定的に間違えることに
つながります。
そういった契約書の読み方の間違いが原因で
冒頭の事例のようにトラブルや
「裁判沙汰」につながる恐れもあります。
なので
契約書が読めるようになるためには
ある程度こういった論理的な思考法に
慣れておく必要があります。
明日は
この流れでもう少し「応用編」の
ネタを取り上げてみたいと思います。
それでは
また。
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Profile
中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。