竹中工務店で起きた
社員による約1300万円の水増し請求事件。
社員の不正で会社が損害を被った場合
「当然、全額弁償させられる」
と思いがちですが
実はそう単純ではありません。

(今日の「棒人間」 どこまで賠償請求できるか?)
<毎日更新1962日目>
昨日のブログでは
竹中工務店の現場責任者によって行われた
水増し請求事件を取り上げました。
社員が1300万円を水増し請求! 会社はすぐに「懲戒解雇」できるのか?
これは
竹中工務店の社員である現場責任者が
大阪・関西万博の会場の工事をめぐり
下請け業社と結託し
下請け業社に工事の代金として約1300万円を
水増しして竹中工務店に請求させた
とされている事件。

こういった社員の不祥事では
主にこの社員の刑事処分をどうするか?
また
こうした不祥事を起こした社員を
会社は解雇できるか?
そして
会社は社員の不正行為によって被った損害を
この社員に賠償請求できるか?
この3つの論点が問題となることが多いです。

昨日のブログでは
この社員を懲戒解雇にできるかどうか
という問題を取り上げました。
さて
こういった水増し請求では
竹中工務店としては
本来支払う必要のなかった水増し請求分
を支払わせられたことにより
その金額の損害を被っていることになります。
そこで、今回は
このような会社が被った損害を
不正行為を行なった社員
に対して賠償請求できるか
という問題を取り上げたいと思います。
まずはじめに
ちょっと常識的な感覚を壊すような
話をしたいと思います。
社員が自らの行為が原因で
会社に損害を与えたとします。
たとえば
社員が会社の車を運転してぶつけて壊した
会社の機械を操作して壊した
取引先へのミスで会社に
損害を与えたなどなど。
実は
こういった場合
会社が社員に対し
被った損害の100%を請求できる
とは限らないのです。
なぜかといえば
一般に会社は社員を雇う
ことによって利益を得ています。
ですから
仮に社員のミスで会社に
損害が発生したとしても
その損害のすべてを社員に
負担させるのは公平ではない
という考え方があります。
この考え方のことを
専門的に
と言ったりします。
それでは
全額の賠償請求ができない場合
会社はどの程度の範囲なら
請求できるのでしょうか?
この点に関しては
最高裁判所が判断基準を示しています。
具体的には
使用者(会社)は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者(社員)の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の予防又はそ損失の分担についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見知から信義則上相当と認められる限度において,被用者(社員)に請求することができる
とされています。
具体的に数字的にどの程度か
というのはあくまでケースバイケースですが
社員が業務中にタンクローリーで
交通事故を起こした事案で
会社が社員に請求できる範囲を損害額の
4分の1に制限した裁判例もあります。
一般的には会社が受けた損害の
2割から3割程度が妥当と
されているようです。
それでは
今回の竹中工務店の水増し請求の
事案ではどうなるのでしょうか?
この件では
会社は1300万円という多額の
損害(水増し請求分)を被っています。
この点
今回の竹中工務店のケースは
単なる「仕事上のミス」とは
かなり性質が異なります。
報道されている事実を前提にすれば
この現場責任者が下請け業社と結託し
約1300万円を水増し請求させ
そのお金を自宅のリフォーム代に
充てたとされています。
つまり
ついうっかり会社に損害を与えた
というものではなく
最初から自己の利益のために
故意に会社に損害を与えたという点が
大きな違いです。
会社の社員に対する賠償請求は
業務上の過失などのケースでは
上記のとおり制限されるのが一般的です。
しかしながら
横領や背任といったような
悪質な不正行為については
その責任制限は考慮されない
と考えられています。
したがって
このケースでは
現場責任者に対して
1300万円全額の賠償請求を行うことが
基本的には可能であると考えます。
ただ
実際問題としては
不正行為を働いた社員個人に
賠償請求を行なっても
回収できる可能性は低い
と言わざるを得ません。
そこで
もう1つとり得る手段としては
この社員と結託して水増し請求を行なった
下請け業社に対して賠償請求を行うことが
考えられます。
下請け会社がこの社員と結託して
水増し請求を行なったのであれば
これは下請け会社と社員の
共同不法行為ということになってきます。
ただ
いずれにしても
現実にこのような不祥事によって
会社が損害を被った場合
お金を回収するのはなかなか大変です。
だからこそ会社として大切なのは
「不正が起きたら誰に請求するか」だけではなく
「そもそも不正を起こさせない
仕組みをどう作るか」という視点です。
社員一人に発注や請求の
権限を集中させない
複数人でチェックする
取引先との不自然なお金の流れを
定期的に確認する。
損害が発生してから1300万円を取り戻すより
1300万円の不正を起こさせない仕組みを作る。
これも
トラブルや「裁判沙汰」の予防策の1つ
として大切だと思いますね。
それでは
また。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。