ある会社からお金を借りて、
そのお金をその会社の
社員に返済したら、
その社員がお金を
横領してしまった。
そのようなとき、
その返済は果たして有効に
なるのでしょうか?
それとも、
そのような返済は無効で、
再度返済しなければ
いけないのでしょうか?
(今日の「棒人間」 この人に返済して大丈夫??)
<毎日更新902日目>
ある会社から借りたお金を
返済していたら、
その返済金を受け取った社員が、
そのお金を横領して行方不明に
なってしまった。
こんなトラブルに関する
ご相談を受けました。
ご相談者は、
ある会社を経営するA社長。
実は、ある会社から5000万円のお金を借りまして、毎月100万円ずつの分割で返済していたのです。
なるほど、5000万円を借りて分割弁済をしていたわけですね。
そうなんです。実際の返済は、その会社の担当社員からの依頼で、会社名義の銀行口座に送金して欲しい、ということでしたので、毎月そちらに送金していました。
なるほど。
そうして、なんとか全額の返済が終わったのですが、しばらくしてその会社の社長から突然連絡があったのです。
どんな連絡ですか?
実は、うちがその会社に返済していたそのお金を、その担当の社員が横領して使い込んでしまったらしいのです。
え、なんとそれはひどい。
その社員はどうしているのですか?
それが、もうしばらく会社に来ていなくて、行方不明状態。
警察に捜査を依頼しているそうです。
そうなんですか。
それで、その会社の社長が言うには、会社としてはまったく返済金を把握していないし、その社員が全部使い込んでしまって、会社としては返済金を受け取っていない、だから再度同じ金額を会社に返済して欲しい、と言うのですよ。
再度払え、というわけですか。
そうなんですよ。うちとしては、その会社の担当社員の言うことを信じて、その会社名義の口座に返済していたのに、今さらその社員が横領したから、再度払って欲しいと言われても、到底納得ができませんよ。
そうでしょうね。
実は、民法で、弁済の受領権限があるような外観の人に支払った場合、たとえその人が実は受領権限がなかったとしても、弁済が有効になる、という規定があります。
なるほど。で、うちのケースはどうなるのでしょうか?
そうですね。その社員が担当者ということで、その人の指示によって会社名義の口座に送金していた、ということですから、この規定によって、これまで行った返済は法的に有効なものとなると考えます。
そうすると、その会社の求めに応じて、再度支払わなくてもよい、ということになりますか?
そういうことになります。
ある会社からお金を借りて、
返済するときに、
その会社の担当社員を信頼して、
その社員に返済をしていた。
ところが、
その社員が受け取った返済金を
自分の懐に入れて横領
してしまった。
実は、
こういうケースを
たまに見聞きします。
この場合、
その社員に対して返済
していた上記のA社長も、
それからお金を貸した会社も、
両方ともいわば「被害者」です。
一番悪いのは、
返済金を横領した社員です。
しかし、
往々にして、
こういうケースでは、
その社員は行方不明に
なっていたりして、
責任を追及することが
困難です。
仮に、
どこかでこの社員が
捕まったとしても、
すでに横領したお金を
使ってしまっていて、
事実上この社員から
回収することは不可能です。
そうすると、
このようなケースでは、
この社員に返済をしたA社長か、
あるいはお金を貸した
会社のどちらかが、
その損失を負担しなければ
ならない、
という問題に直面します。
このようなケースで、
民法478条という法律で、
次のように定められています。
受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
ちょっと長ったらしくて、
わかりにくいですね。
簡単に言えば、
たとえば返済金などを受け取る
権限がない人であっても、
常識的に見てそれを受け取る
権限があるとの「外観」が
ある人に対して弁済した場合は、
基本的に弁済は有効になる、
ということです。
これは要するに、
上記の返済をしたA社長と、
お金を貸した会社のどちらに
その「損失」を負わせるのが
公平なのか、
という観点から法律が
できています。
当たり前ですが、
一番悪いのは、
その返済金を横領した社員です。
そして、
この社員をどちらが
コントロールできたか、
と言えば、
この社員を雇っていた、
お金を貸した会社の方です。
この点、
この会社の担当社員としてA社長と
やりとりをしていたこの社員は、
いわば返済金を受け取る
権限があるとの「外観」が
あったと言えます。
とすれば、
A社長の立場からすれば、
こうした「外観」を信頼して
この社員が指定する口座に
送金した行為は、
いわば正当な行為である
と言えます。
したがって、
この場合には、
返済をしたA社長ではなく、
横領社員を雇っていた会社に
「損失」を負担させるのが
公平な結論である、
と言えます。
ただし、
上記の民法478条では、
後段で、
という条件が付けられています。
ここで、
「善意」というのは、
法律用語でして、
その社員に受領権限がないこと
(つまり、その社員が横領の意図を持っていたこと)
について、
知らなかったということを
意味します。
単に知っていたという意味であり、
善い人という意味ではありません。
つまり、
返済者が、
その社員に受領権限がない
ことを知っていたか、
過失によって知らなかった
ような場合は、
弁済は有効にはならない、
ということです。
これは、
やはり返済をするA社長の側にも、
取引上常識的に要求される
注意が求められるのであり、
そうした注意を怠った場合には、
保護されませんよ、
ということを意味しています。
ここで、
保護されないと言うのは、
A社長の行った返済が有効
ではなくなる、
つまり、
お金を貸した会社から
求められれば、
再度返済しなければならない、
というA社長にとって悲惨な
結果を意味します。
A社長が、
その社員の横領の意図を
知っていながら、
その社員に返済した場合
(あまり想定できませんが)には、
もちろんA社長を保護する必要はなく、
むしろこの場合は、
お金を貸した会社を
保護すべきでしょう。
しかし、
知っていた場合だけではなく、
A社長の過失(ミス)によって、
その社員が受領権限がないことを
知らなかった場合も、
A社長は保護されなくなる、
という点には注意が必要です。
たとえば、
その社員が返済金を送金して
欲しいと言ってきた口座が、
その社員個人の名義の口座で
あったような場合です。
この場合には、
A社長としては、
そのまま振り込むのではなく、
やはりその会社にきちんと
問い合わせを行って、
その社員の個人名義の口座に
送金してよいのかどうか、
確認を行うべきでしょう。
そのような確認を怠った場合には、
A社長には過失があったと
される可能性が高くなります。
いずれにしても、
こうした「返済」をめぐるトラブルを
予防するためには、
やはりその担当社員に、
返済金を受領する権限が
あるかどうかを、
きちんとその会社に確認するのが
安全だと思われます。
せっかく行った返済が
無効となってしまっては、
洒落にならないでしょう。
やはり、
トラブルを予防するためには、
取引上常識的に要求される
注意を怠らないように、
気をつけたいものです。
それでは、
また。
裁判しないで解決するノーリスクプロモーター・弁護士 吉田悌一郎のプロフィール
YouTube(渋谷の弁護士・吉田悌一郎の中小企業ビジネス法務チャンネル)
最新動画
今回は、音声配信のVoicyを楽しみながら日々発信しています、というテーマでお話しています。
活動ダイジェスト
住所 | 150-0031 東京都渋谷区桜丘町4番23号渋谷桜丘ビル8階 マップを見る |
---|---|
受付時間 | 【平日】9:30〜18:00 【土曜日】9:30〜12:00 |
Profile
中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。