大手との契約が取れそうだ、
これを見込んで社員に
内定通知を出したところ、
その後結局大手とは
契約がとれず。
やっぱり社員は
いらなくなったので、
内定取消しをしたい。
こうしたことは、
法的に許されるのでしょうか?
(今日の「棒人間」 内定取消しの通知が来た???)
<毎日更新1038日目>
社員の採用で、
「内定通知」を出すと、
会社にも一定の「しばり」
がかかります。
すなわち、
内定を出すことで、
入社予定日までに
採用内定取消事由が
生じた場合には、
解約できる旨の
留保権がついた
労働契約(雇用契約)が
成立したことになります。
昨日のブログでは、
その辺のことについて
詳しくお話ししました。
内定によって、
社員との労働契約(雇用契約)が
すでに成立していますので、
会社が内定を一方的に
取り消すことはできません。
会社が内定取消しができるのは、
「採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できない」事実が後に判明し,しかも,それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」
場合に限られる、
とされています。
そして、実際に
内定取消し事由として
認められるのは、
たとえば、
などがあるとされています。
少し古い事例ではありますが、
派遣会社が、
大手家電量販店からの
業務委託契約締結を見込んで、
派遣社員の採用内定を
出しました。
裁判例で公開
されている事例ですが、
ここでいう派遣会社は「パソナ」、
大手家電量販店は
「ヨドバシカメラ」です。
パソナとしては、
今後ヨドバシカメラと
業務委託契約を結び、
社員を派遣する
必要性が生じたので、
実際に派遣社員と雇用契約を結び、
その社員を採用後に
ヨドバシカメラに派遣する、
というスキームだったようです。
ところが、
パソナが派遣社員に対して
内定通知を出した当時は、
まだヨドバシカメラとの間で
正式に業務委託契約
が成立していませんでした。
その後、結局
パソナは、
ヨドバシカメラとの間で
業務委託契約の締結に
至りませんでした。
そこで、
パソナはその派遣社員に対して、
採用内定を取消した
という事例です。
これに対して、
この派遣社員が、
内定取消しの無効を主張して、
内定を出したパソナに対して
裁判を起こした、
というものです。
この件で、
裁判所は、
内定当時は、パソナがヨドバシカメラとの間で、業務委託契約締結に向けて行動していたのだから、その契約が派遣社員の就労までに成立するであろうとの見通しを持ったことはやむを得ない。
パソナにおいて、その後、ヨドバシカメラとの契約がダメになることまで想定して、販売員(派遣社員)の採用手続きを中止することまで期待されていたとは言い難い。
としました。
その上で、
その派遣社員(販売員)を内定した後、結局ヨドバシカメラとの業務委託契約が不成立となり、その派遣社員(販売員)を予定通り就労させることが不可能となった以上、留保解約権に基づき採用内定を取消したことは、解約権留保の趣旨・目的に照らして社会通念上相当として認められるので、パソナによる内定取消は、適法かつ有効である
と判断しました。
ただ、この裁判例では、
次の点が少し特徴的です。
すなわち、
本件採用内定通知が出されて時点で、まだヨドバシカメラとの業務委託契約成立には至っておらず、パソナ側は、もし最終的に業務委託契約が成立しなければ、採用した派遣社員のヨドバシカメラ店舗での就労を拒否される可能性があること自体は認識していた。
そうであれば、パソナとしては、その時点で、将来ヨドバシカメラとの業務委託契約が成立しない可能性があること、そして、そうなればヨドバシカメラ店舗での就労ができなくなる可能性があることを派遣社員に告知して、それでも労働契約の締結に応じるか否かを選択する機会を与えるべき信義則上の義務を負っていた
としました。
そして、
パソナはその告知義務
に違反したので、
あくまで内定取消しは
有効であるものの、
告知義務違反により
派遣社員に精神的苦痛を
与えたとして、
20万円の慰謝料の支払いを
命じました。
この点、
冒頭で見たように、
採用内定取消しが
許されるためには、
したことが必要です。
上記の事例では、
パソナが採用内定を
出した時点で、
将来ヨドバシカメラとの間で
業務委託契約が
不成立に終わることを
「知ることが期待できない」
かどうかについて、
かなり微妙な判断だった
のではないかと思います。
それで、
内定取消しは有効とした上で、
慰謝料でバランスを取った
のかも知れませんね。
いずれにしても、
「内定」というのは、
その時点ですでに社員との間で
労働契約(雇用契約)が
成立している
ことになります。
ですから、
一度「内定」を出してしまうと、
会社側には一定の「しばり」が
かかります。
安易に内定を出した上で、
安易に「内定取消し」をやると、
社員との間でトラブルになり、
上記のように最悪は「裁判沙汰」に
陥る危険があります。
この点、
私のミッションは、
ということ。
社員とのトラブルや
「裁判沙汰」を避けるためには、
まず「内定」の法的性質を知り、
「内定」の時点で会社に
しばりがかかるということを
理解する必要があります。
その上で、
くれぐれも安易な
「内定取消し」を行わず、
「内定取消し」できる要件
に当てはまるか、
冷静に判断する
必要があります。
というわけで、
一度「内定」を出すと、
それを取り消すのも
そう簡単ではない場合が
あります。
やはり安易な「内定」を避けて、
社員の「採用」は慎重に行うことが
大切ですね。
それでは、
また。
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中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
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私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。