退職後の「競業避止義務」の合意をして
退職金まで支払った社員が
退社後合意に違反して競業する会社を起業。
こんな場合
その社員に支払った退職金を返せ
と言えるのでしょうか?
(今日の「棒人間」 金返せと叫ぶ人)
<毎日更新1373日目>
建設会社を営むA社長の怒りは
なかなか収まりそうにありません。
ちょっと聞いてくださいよ!
うちの社員が、うちを退職後に同じ市内でうちと同じ業種の会社を開業したのです。
なるほど、それは穏やかではありませんね。
同じ市内でやられたんじゃ、お客さんもバッティングしますし、うちとしても損失が大きいのです。
その退職した社員さんとの間には、競業避止義務の合意はしていたのですか?
もちろんしていました。退職後1年間は、同一の市町村内で競業はしないという誓約書も書いてもらっています。
それでそんな露骨な違反をしているわけですね。
そうなんですよ。それだけじゃありません。その社員が退職する時に、長年勤めた社員だったので、それなりの金額の退職金も払ってるんですよ。
そうだったんですか。
そうですよ!それに対して、社員のこの仕打ちです。許せません。こいつを訴えて、払った退職金も全額きれいに返してもらいたい!!
昨日のブログでは
社員が退職した後の「競業避止義務」
というテーマでお話ししました。
社員が退職して独立起業、「競業避止義務違反」に問えないのか?
「競業避止義務」というのは
自社の業務とライバル関係にある
会社に転職したり
そういう企業を新たに
設立したりしてはならない
義務のことです。
そして
退職後の社員に「競業避止義務」を
課したい場合には
個別に会社とその社員で
「競業避止義務」に関する
「合意」を行う必要があります。
ただ
社員にも「職業選択の自由」
があります。
ですから
あまり過度の制約を課す
「競業避止義務」の合意は
公序良俗違反で無効
となる可能性が高い。
そこで
地域や期間をある程度限定した
「競業避止義務」の合意であれば
有効であるとされています。
それでは、次に
この「競業避止義務」の
合意が有効であるとして
社員が退職後にこの
「競業避止義務」に違反して
会社と同業の仕事で
起業してしまった。
その際
社員が退職する際に支払った
「退職金」を返せと言えるのでしょうか?
この点は
仮に社員が有効な「競業避止義務」
の合意に違反した場合でも
支給した退職金を返せと
言えるかどうかは
一応別問題です。
というのは
退職金というものには
次の2つの性質があると
言われています。
1つ目は
です。
これは、
社員の長年の功労に対して
退職金というお金で報いる
といった性質です。
そして
もう1つは
といわれるものです。
これは
賃金の一部を後払いとすることで
社員の定着を促す役割があると
言われています。
たしかに
有効な「競業避止義務」に
違反した社員については
1つ目の功労褒賞としての側面
で考えれば
退職金の一部ないし全部を
返せと言えるかも知れません。
しかし
もう1つの
賃金の後払い的性質を考えれば
いくら懲「競業避止義務」に違反した
社員でも
そう簡単に退職金の全部
又は一部を返せとは言えない
という結論になります。
そこで
「競業避止義務」に違反した社員に対して
支払った退職金の全部又は一部を
返せと言えるためには、
社員のそれまでの勤続の功労を抹消ないしは減殺してしまう程度の、著しく信義に反する行為があった場合に限られる
とされています。
ですから
結局はケースバイケースで
実際には
「競業避止義務違反」の
程度や内容などにもよる
ということになります。
ただ
その場合でも
実際上は
退職金の全額の
返還請求が許されるのは
相当限定的な場合
ということになろうかと
思います。
なお
こうした退職金トラブルを
あらかじめ予防する方法としては
就業規則にきちんと記載しておく
という方法があります。
すなわち
事前に就業規則で
退職金の支払い後に
その社員の競業避止義務違反が
判明した場合には
退職金の全部又は一部の
返還義務があることを定めておく
ことが有効であろうと思われます。
このような就業規則の定めがあれば
社員が退職後に競業避止義務に違反する
行為を抑止することにもつながるでしょう。
つまり
就業規則の定めがあれば
この種のトラブルを予防
することにもつながる
ということです。
いくら後で返還請求できるとは言え
いったん支払ってしまった
退職金を返還させるのは
簡単なことではありません。
裁判を起こさなければならない
可能性も高くなります。
そうした「裁判沙汰」を予防するためにも
事前の対策は重要ですね。
それでは
また。
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中小零細企業の顧問契約をメインの仕事としています。
中小零細企業が法的トラブルに巻き込まれるのを未然に防止すること、 そして、 情報発信を通じて弁護士の敷居を下げ、中小零細企業にもっと弁護士を利用していただくことを使命として活動しています。
【私のミッション】
中小零細企業の味方であり、中小零細企業のトラブルを「裁判しないで解決すること」をミッションにしています。
中小零細企業のトラブルが、「裁判沙汰」にまで発展すると、経営者の方にかかる時間的・経済的負担が大きく、エネルギーを消耗します。
私は、中小零細企業のトラブルをできる限り未然に防止する、万が一トラブルになっても、それをできるだけ小さいうちに「解決」することで、経営者の方の余計な負担をなくし、本業にエネルギーを傾けていただきたいと考えています。
また、中小零細企業の「お困りごと」に関しては、法律問題という弁護士の職域を超えて、経営コンサルタント(キャッシュフローコーチ)として、経営相談や金融機関融資の支援などを通じて、日本経済を支える中小企業の「お困りごと」全般のお手伝いをすることにも力をいれています。